明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『べらんめえ剣法:若さま侍捕物手帖』 城昌幸

1952年(昭27)3月~1953年(昭28)2月 雑誌「読切俱楽部」連載

1958年(昭33)同光社出版刊。「手妻はだし」「天狗隠し」「名指し幽霊」など12篇所収。

 城昌幸の代名詞ともなった『若さま侍捕物手帖』のシリーズは戦前の1939年(昭16)に第1作を書いてから足かけ30年近くまで長短交えて約300篇を数えるという。戦後は雑誌「読切倶楽部」に4年間ほど連載したが、その最初の12篇が単行本として出されたのが本書である。

 

人気を博したシリーズ物の強みは、人物設定と状況設定の雛形化(テンプレート化と言った方がわかりやすいかも)にある。ここでは、姓名も身元も不詳の若さま侍、御用聞きの遠州屋小吉、船宿喜仙の大川に沿った二階座敷、床柱を背に右の立て膝で暇つぶし酒を飲む姿などである。毎回一話完結で、小吉の持ち込む事件をさらりと解決してくれる。その探偵手腕はあっけないほどであるが、ファンの読者にとってはもう一つの日常からもたらされる安住感が快いのだろう。☆

 

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用

https://dl.ndl.go.jp/pid/1667806

https://dl.ndl.go.jp/pid/1723103/1/28

雑誌連載の挿絵は今村恒美。(雑誌連載には欠号あり)

 

下記に引用した「辻琴人情」という一篇に、将軍家の典医だった人物が出てくる。その人が若さまの幼少の頃に脈を取ったと語っているのだから、若さまは将軍家ゆかりの人物(御落胤?)ではないかと推測される。

 

《内藤玄順先生は、二代にわたる将軍家の脈を取った人だ。(…)

その脇に白髪頭の、品の好い老人が、ちんまりと畏(かしこ)まっている。(…)

「若さまには、いかい御成人遊ばされましたが、……手前がお脈を拝見しましたのはあれは何時ごろにて?」

と玄順先生。

「何時だッたかなァ、古い話だ」

「近頃は、だいぶ御酒を召し上がると伺いますが、まず、程々になされませ」》(辻琴人情)

 

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ