1959年(昭34)同光社出版刊。
1956年(昭31)5月、雑誌「小説倶楽部」増刊号再録「走る死美人」
風采の上がらない元警察署長の私立探偵・杉浦良平と助手の影山青年の活躍する短篇シリーズから6篇を収める。いずれも戦前から戦中にかけて発表されたもの。主役の探偵の下品な笑い声をはじめ、老体の醜悪さを事あるごとに描いているのに特色がある。「儂」(わし)という主語を使うのも珍しい。(下記に引用)
作品では「昆虫男爵」と「蛇寺殺人」が充実していた。また「走る死美人」は、深夜の晴海通りを白い馬が半裸体の女性を乗せたまま築地の方角へ疾駆するというエキセントリックな光景が印象的だが、戦前昭和の時代でなければ想像できないものだと思った。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1647664
https://dl.ndl.go.jp/pid/1790615/1/186
雑誌再録の「走る死美人」の挿絵は山田彬弘。
《古ぼけた山高帽にモーニング・コート。顔は痩せこけていてかまきりの如く、しかもその顔にはだらりと山羊髭を生やしていて、太い鼈甲ぶちの眼鏡を鼻の頭へずり落ちそうにかけているという、はなはだ風采の上がらぬおいぼれ親爺。(…)根は好人物な老人だが、どこか風変りなところがあり、時によると、ひどく下品で無作法で皮肉屋になる。そこがこの杉浦良平の特徴だったのです。》(昆虫男爵)
「要するに都会というものは、田舎よりもはるかに文化の程度が高く、しかしながらその文化の高い反面に於ては、田舎よりも犯罪の起ることが多い。つまり、表向き極度に文化の発達している都会には、その蔭に、犯罪の暗黒面というものが、アングリと口を開いているということになる。」(走る死美人)
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