明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『林中之罪』 菊亭笑庸・訳

林中之罪:菊亭笑庸

1894年(明27)今古堂、探偵文庫 第九篇~第十篇 前後2巻。

 

 菊亭笑庸(きくてい・しょうよう、生没年とも不明)は黒岩涙香に追随するように海外の探偵小説の訳述に活躍した。他の多くの翻案作家たちと同様に彼らの存在はそれぞれの版元の広告等に名前が出る程度で、詳細は不明となっている。笑庸の場合には主として今古堂の探偵文庫シリーズに何点かの作品が残された。しかもドイツ語の語学力を駆使できた人物は彼のほか、森鷗外など少数者だったので重宝がられた。

 

林中之罪:菊亭笑庸2

 この「林中之罪」についても原作者が誰かは明らかにされていない。舞台はほとんどロンドンの市街や公園であり、読んでいくうえでも英国人気質を感じることからすると、英国小説の独訳本を和訳(つまり重訳)したのではないかと勘ぐってしまう。確かに所々に独語の諺の引用なども出るのだが、自国のドイツには何の言及もない作品をドイツ物とは認めがたい気がしてならなかった。また前後2巻の長篇でありながら、新聞小説の時間稼ぎのような駄弁の連続(饒舌体)には疲労感も感じた。悪業が二世代に及ぶ話の広がりで、なかなかの長篇ではあるが、人物関係にわかりにくさがあった。丁寧に訳していたとは思うのだが・・・☆

 

林中之罪:菊亭笑庸3

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/888933

https://dl.ndl.go.jp/pid/888934

表紙絵および挿絵の作者は未詳。

 

林中之罪:菊亭笑庸4

「饒舌(しゃべり)出しますとぼうず(際限?)がなく饒舌出し、用なんぞは其方(そっち)のけになり、時に依ると食事まで忘れて饒舌(しゃべっ)て居(おり)ます事がございますよ。(…)お饒舌(しゃべり)といふものはやっぱり呼吸物で、一つ序開が出ますと其から其と跡が出て、しまいには何を多弁(しゃべっ)て居るか自分すらも訳(わか)らなくなって参ゐります。」(第五十四回)

 

林中之罪:菊亭笑庸5

 

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