1928年(昭3)1月~5月、雑誌「女性」連載(中断)
1930年(昭5)先進社、大衆文庫第6巻所収。
「神木の空洞」(しんぼくのうつろ)は現在は古書の稀覯本もしくは国会図書館デジタル・コレクションでしか読むことができない。昭和初期にモダニズムの先端を行く雑誌として「女性」が発行されていて、その末期に連載された。
舞台は湘南地方の海辺のとある村、秋葉神社が出てくるが、大磯や二宮周辺にはいくつか同名の神社が点在する。語りは三人称だが、視点は民宿に滞在する探偵小説作家の高笠にある。探偵作家に本物の探偵をさせるという微妙なアンバランスさが面白い。神社に隣接する素封家の邸内で起きる盗難事件。狙われる美人妻、そしてその友人として東京の富豪の娘がモダンガールの装いでやって来る。盗まれた物をなぜわざわざ神木の空洞に隠す必要があったのかが不思議なのだが、それを疑い出せば物語は成立しなくなる。昭和初期の時代の自由な息吹を感じるだけでも興味深かった。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1566344/1/190
https://dl.ndl.go.jp/pid/1881916/1/6
アールデコ調のモダンな意匠に特徴がある。
「すべての犯罪人は」高笠は心の中で呟いてゐた。「罪に対する悔悟よりも、刑罰に対する恐怖の方が大きい。すべての犯罪が小説や演劇に現はれるやうに、必ず刑罰に終ると云ふ事が確かだったら、犯罪は激減するだらうな。」(…)さうして結末が高笠自分の全然予期しない、一見複雑なやうで、実は平凡極まる事であったのに対して軽い失望を覚えてゐた。