明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『恐ろしき生涯』 フェリックス・ヴァロットン、税所篤二・訳

恐ろしき生涯:ヴァロットン Vallotton

1927年(昭2)7月、9月、12月 雑誌「女性」に掲載。

 

作者のフェリックス・ヴァロットン (Félix Vallotton, 1865~1925) は後期印象派の影響を受けながら、ナビ派に参加し、画家、木版画家、美術評論家として活躍した。原題は La Vie meurtrière(凄惨な人生)で半自伝的な内容だが、草稿のまま死後発見されたという。美術評論家税所篤二が翻訳した。

探偵小説風に始まるが、本質的には文芸作品で、自殺した若い男が書き残した手記という形式で、その男の生い立ちから感受性に富んだ半生が語られる。特にフランス的なのは、美しい人妻との恋情の推移を突き詰めていることで、心理小説の古典とされる「クレーヴの奥方」以来の美人妻の「よろめき」や「苦悩」が中心テーマである点なのだ。明治大正から昭和にかけても日本では「不倫」を正面から取り上げる小説はすかさず発禁になっていたのとは対照的だった。海外文学の翻訳という形で、日本に見られない愛の形が紹介されるのも新鮮だったかもしれない。なお物語は中断した形になっているが、抄訳だったのか、原作の草稿がここで終っていたのかは不明だ。ベルエポック時代のパリの雰囲気は十分に味わえた。☆☆

恐ろしき生涯:ヴァロットン Vallotton

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1566338/1/168

挿絵(版画)はフェリックス・ヴァロットン本人の作による。

La vie meurtrière : Vallotton

《私はブラブラしてゐた車を呼びとめた。モンテサック夫人はそれに飛乗って、最後の親し味の籠った微笑を送った。車は走り出した彼女の化粧崩れのした顔が夕闇に消えていった。

……惨めだ……俺は苦しい。遠くから彼女が淋しさうな眼で振返ってゐるのが見えた。私は独り取り残されてゐた。俺は矢張り初めから独りなのだ……》

 

**Wikipedia

ja.wikipedia.org




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