明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『われ恋やまず』 長谷川幸延

1952年(昭27)11月~1954年(昭29)3月 雑誌「婦人生活」連載

1954年(昭29)和同出版刊。

 

長谷川幸延(こうえん)(1904~1972)はラジオドラマや映画の脚本家としても知られ、大阪の人情と風俗を描いた小説家である。生涯で7回も直木賞にノミネートされたが受賞を逸した。

 

実業家の御曹司城木晋は新進画家として認められており、京都の芸妓だったお扶美と同棲していたが、親の政略がらみの結婚をことわりきれず、彼女を絶望のどん底に落としてしまう。しかも彼の子供を身ごもっていたのだ。お扶美はそれまでのあらゆる関係を絶って、出産し、女手一つで生活を切り開いていく。いかに芸術のためとは言いながらも重婚状態を自ら招いた男の意志薄弱さと身勝手さを棚上げにして、翻弄される二人の妻たちの辛苦は同情しても正答は見出しにくい。また一方で画家仲間のバンカラな男の献身的な行動があるのに対し、他方では妻子や地位を投げうって恋情ゆえのストーカー行為に身を持ち崩す男の狂気も描かれて興味深かった。☆☆☆



国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用

https://dl.ndl.go.jp/pid/2324887/1/44

https://dl.ndl.go.jp/pid/1353866

雑誌連載の挿絵は成瀬一富。

長谷川幸延

 

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