1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集 第16巻所収。
浜尾四郎の作家としての活動は6年間しかなかったが、その最初期の3作品を読んだ。
『悪魔の弟子』
片や裁判所の判事、片や殺人犯。獄中から少年期に兄のように慕っていた判事に宛てた長文の手紙のスタイルを取っている。少年時代には上級生や従兄などから事物への興味の方向性や価値観が影響を受けることは確かにある。ただし一般的には成長の過程で、どこかに社会的な規範や尺度とのすり合わせが行われる。この囚人の場合には異常なほど純粋過ぎたのか。「あんたのせいでこうなった」と難詰しても、その責任を転嫁する訳にはいかない。さらに「不眠症」や「催眠薬」への過度の依存が物語のカギになっていた。文体は生硬だが整然としていた。☆☆
『彼が殺したか』
浜尾の処女作。深夜、夫婦の部屋で起きた叫び声に家人が駆けつけると、血まみれの刃物を持った容疑者が呆然と立っていた。という容疑者の犯行を否定できない設定から、もしそうでない場合はどんなことが考えられるかを推理していく。まさにパズル問題のような本格作品だが、前夜の麻雀のゲームの推移など枝葉末節への記述は不要と思えた。☆
『黄昏の告白』
これも外見的には強盗殺人事件で片づけられるものを、その本質では別の要素が隠されていたという物語。対話体でその種明かしが綴られるのだが、かなり理知的で乾いた語り口になっている。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1790624
《犯罪史を繙(ひもと)いて、犯罪の暴露の経過を見ると、犯人にとって最も危険なのは彼自身の良心です。彼等は勇敢に犯行をなすに不拘(かかはらず)、犯行後が極めて臆病です。若し彼等が、犯罪を行った時と同様の図々しさをもって居たなら、恐らくは彼等の犯罪が発見しなかったであらう事は、多くの犯罪事実の示す所です。》(七)