明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『吹雪巴』 遅塚麗水

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1901年(明34)金槇堂刊。作者の遅塚麗水(ちづか・れいすい)は作家、新聞記者で紀行文の大家として知られた。表題の「吹雪巴」(ふぶきどもえ)は《雪は卍巴(まんじともえ)に降りしきり》など、互いに入り乱れて雪が降る様子を形容する明治期の言い方である。「近世実話」の副題があり、函館の病院長の手記をもとに遅塚が一家族の物語に再構成したもの。秋田の由利本荘市の医者だった父親が早逝したため、生活苦となった母親が主人公とその妹を連れて船で北海道の松前に渡る。しかし困窮からは抜け出せず、主人公は親から離れ、親戚に養育されて医者になる。残った母娘は北海道で艱難辛苦を乗り越えていく。明治期の開拓者たちやアイヌの民の生態なども当時の視点で描かれている。文体は漢文調ながらも、筆に勢いがあるせいか先へと読み進ませる。こうした実話は人生とは何なのかの一例を考えさせてくれる。小説としての細部の肉付けも見事で読後感は良好。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。表紙絵と木版挿絵は歌川珖舟と思われる。

吹雪巴 : 近世実話 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 

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