1939年(昭14)紫文閣刊。小林宗吉(そうきち)は本来劇作家だったが、ほとんど唯一のミステリー短編集を読むことができた。表題作「女優奈々子の審判」は深夜の一軒家で起きた殺人事件で犯人に問われた奈々子の裁判をめぐる攻防。他の2作(「黒表の処女」「殺人嫌疑の花嫁」)も含め、トリックこそ幼稚だが、演劇風の軽妙なセリフのやり取りは昭和初期のレトロな時代風潮を感じさせる。「上海の女間諜」はすでに昭和12年から始まっていた日中戦争での女スパイの活躍と死を描く。軍部が中国側に難癖をつけて戦争の泥沼に入って行った過去の事実は反省すべきことだが、決して消し去れないのだと痛感する。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は無し。
この昭和の戦前期の出版物の広告(下掲)にも興味を引かれる書名があるが、現在デジタル化されたものは極めて少ないし、現在古書としても入手可能なものは限られる。その分だけ稀少価値が感じられる。