明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『疑問の三』 橋本五郎

1932年(昭7)新潮社刊。新作探偵小説全集第5巻。昭和初期の探偵小説作家10人の競作全集の一つ。作者の橋本五郎(1903-1948) もその一人だったが、長篇作品はこれ以外に見当たらない。(同姓同名の戦後生まれのジャーナリストとは別人。)

神戸の公園のベンチに放置された死体が立て続けに発見される。いずれも前夜に絞殺されたものと判定されたが、直前の目撃情報では犯人と連れ立ってゆっくり歩いていたという。それが同じやり方で4人も続くとなると警察も躍起となって捜査に取り組んで行く。事件の発見者となった2人の新聞配達の青年も事件に首を突っ込んで行く。丁寧な筆致で読み応えはあるのだが、読者に対する情報の開示、つまり刑事たちや関係者が知り得たはずの情報が筆者によって開示されないままでしばらく話が進むと、少々我慢ができなくなってくる。また犯行そのものの異常性、つまりどうしてそこまでそのような犯行の形にしなければならなかったのか?が最後までしこりとなってしまうのは、ひねりすぎた謎の構築上の弱点なのかも知れない。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1181350

挿絵は内藤賛。昭和レトロの味わいがある。

 

《ある人々にはさまでの事件でもない些細なことが、貧しい人々にとっては生命以上の大事であるやうなことは屡々ある。そんな時、富める人々がこれを一笑に附して忘れて了(しま)ふに対し、貧しい人々は一生その嘆きと復讐を思うて喘ぎ苦しむのが普通である。(…)彼はその無念さから遂に正当を飛躍して非合法的に復讐を遂げんとしたものであった。》(疑問の三)

 

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ