明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『怪奇探偵実話』 高橋定敬

 

1933年(昭8)大日本雄弁会講談社刊。著者の高橋定敬(さだあき)は約20年間、現職の警察官として働いたようだ。大正5年頃から捜査現場の人間の視点から探偵実話を書き始めた。整然とした文体で、簡潔かつ冷静、的確に事件の推移を記述している。収録の12篇はまさに「事実は小説よりも奇なり」で、事実の奇怪さに驚かされた。ノンフィクション作品としても一定のレベルに達している。☆☆☆

 

「翻案、創作の類は、興味は深いが、閃々骨を刺す鋭さがない。事実物は悄然胸を衝くの鋭さを持っているが、衣装をつけぬ人形のやうで、情味も滋味も艶味もない。事実を心として、充分に想意の衣裳をつけた本書は、その点巧みに按配されて、読んで興味津々たるものがある。殊に全篇を通じて、明治大正年間の大事件の悉くが織込まれてゐて、それはさながら明治大正の犯罪史を見るが如く、一面又各名探偵の活躍の記録は、宛然明治大正の大探偵史を繙くやうな感がする。」(警視庁刑事部長 橋本清吉 序文)

 

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用

https://dl.ndl.go.jp/pid/1209714

口絵は太田雅光。

 

《宵のうちから降り出した春の粉雪が、家も街も樹木も濠もただ一枚の白布に包んでしまった静寂な夜更だった。》(血針と怪投書)



 

 

 

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