明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『折れた相思樹』 富澤有為男

折れた相思樹:富澤有為男

1950年(昭25)1月~1952年(昭27)6月 雑誌「富士」連載。2年半、30カ月に及ぶ。

1952年 講談社刊。(傑作長編小説全集第21巻所収)

 

富澤有為男(ういお)(1902~1952) は作家であると共に帝展に入選するほどの実力のある画家でもあった。戦前期(1937)に芥川賞を受賞していたが、作家としての現在の知名度はなぜか低い。寡作であったのと中央文壇からは隔絶して暮らしたからかもしれない。

この作品は戦中から戦後にかけての若い画学生と南西諸島で育った少女との心と心の絆の深さを描いた感動作だった。写生に訪れた島で二人の心の交流が始まるが、単なる恋愛に発展するのではないのがかえって心情の深さを感じさせた。青年は軍隊に応召し、捕虜となった後に帰還し、結核で病の床につく。他方で、彼の作品を自作と詐称し、富と名声を得る仇役の男の存在感も大きい。通俗的か否かをいちいち判定することが無意味に思えるほど、この小説は読み応えと面白さで満喫できた。個人的には彼の代表作の一つと言ってもいいと思った。☆☆☆☆

 

折れた相思樹:富澤有為男2

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/3561675/1/19

https://dl.ndl.go.jp/pid/1660053

雑誌連載時の挿絵は志村立美および土端一美。

 

折れた相思樹:富澤有為男3

《一度祀りあげられた偶像は、本来持っている卑しい面貌にさえ、何か意味があるように思われて来るものだ。欠点は美点に変り、卑しさは貴さに見え、不正は正義になってくる。しかもこの錯覚は容易には改められない。群衆はこの錯覚を頑強に固持するものなのだ。自分たちが祀り上げた偶像に盲目的な信仰を誓うものなのだ。》(みつぎの発憤)

折れた相思樹:富澤有為男p

富澤有為男






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