1952年(昭27)湊書房刊。
1955年(昭30)東方社刊。
明治中期の自由民権運動から日清戦争に向けて、まだ日本の近代化が形を成すに至らない時代の青春群像を描いている。武芸全般を修めた主人公の春信介は、身体一つで上京するが、すぐに騙されて牛肉屋に住み込みの身となる。その後、男爵家の書生、車夫、壮士節、新聞記者などを試みるが、好男子のため先々で娘たちに恋焦がれる立場となる。硬骨漢で独自の人生観を持つ彼は情に流されることなく生きて行く。この作者の代表作「姿三四郎」と似通った求道者の姿が見えた。恋に生きる女性たちの心情の変容についても巧みに描き出していた。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1659734
https://dl.ndl.go.jp/pid/1662068
《信介は女の愛情と言うものが、極めて利己的で、他をかえりみる暇もない程に積極的であるのを感じた。これ以上、お竜の家に居たら、彼がどんなに意志を強くしても、結局はお竜の劇しい情熱に負けるのではないかと思うと、苦しかった。》(もみじ寺)
「あれが、日本の政治の一つの現われなのだ。ただ、己れの意志だけを通し、相手を妨害することに終始して、政権の行衛を追うのみ。これでは世間の人間から政治が離れ、社会の一般大衆が無関心になるも道理ではないか。」(青年)
《魚の形に似た雲が一つ、朝空を西へ流れて居た。その後を追うかのように小さな浮雲がもう一つ後から、ゆっくりと空を渡っているのを、信介とお久は兄の周作をまちながら、新橋停車場の広場から眺めていた。》(耐えてゆかむ)
*参考画像:壮士ぶし : 附新ゆくわい(瀬山佐吉編) / 杉本梁江堂 @日本の古本屋
https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=438051220