明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

文芸作品

『木乃伊の口紅』 田村俊子

木乃伊の口紅:田村俊子 1914年(大3)牧民社刊。 「木乃伊(ミイラ)の口紅」という題名が妙に気にかかっていたので読もうと思った。田村俊子は幸田露伴に弟子入りした純文学作家である。季節や事物への感受性が繊細かつ鋭敏で、文章に重みを感じた。共に文…

『不連続殺人事件』 坂口安吾

不連続殺人事件:坂口安吾、高野三三男(画) 1947年(昭22)初秋号~1948年(昭23)7月号、雑誌「日本小説」連載 1956年(昭31)河出書房、探偵小説名作全集 第9巻所収 不連続殺人事件:坂口安吾1 終戦直後に創刊された雑誌「日本小説」に連載された坂口安…

『女学生』 藤沢桓夫

女学生:藤沢桓夫(たけお) 1947年(昭22)新太陽社刊。 終戦直後の大阪の寄宿舎のあるミッションスクールが舞台となっている。夜の庭園を散歩していたヒロインの目の前に青年が塀を乗り越えて入って来た。アルセーヌ・ルパンまがいだと思って黙って見てい…

『彼女の太陽』 三上於菟吉

彼女の太陽:三上於菟吉 1927年(昭2)7月~1928年(昭3)5月、雑誌「女性」連載 1931年(昭6)新潮社、長編三人全集 第18巻 所収 昭和初期にモダニズムの先進的な旗振り役を果たしたプラトン社発行の雑誌「女性」に連載された注目作。若くして病気で夫を亡…

『宮本洋子』 里見弴

宮本洋子:里見弴 1947年(昭22)苦楽社刊。 日中戦争の激化してきた昭和14年から終戦に至るまでのいわゆる戦中期を過ごしたヒロイン宮本洋子の生活と心情の移り変わりを描く。一流の音楽家同士で結婚したが、夫は召集後間もなく戦死する。その直前までの宮…

『清き泉を掘らん』 芹澤光治良

清き泉を掘らん:芹澤光治良 1951年(昭26)4月~1952年(昭27)4月、雑誌「婦人生活」連載。 1954年(昭29)北辰堂刊。 抽象画を学ぶ画家の卵の青年とその友人の哲学科の学生、その妹のフランス語教師、そして音大生を目指す娘という男女二組を中心にした恋…

『六つの悲劇』 山岡荘八

六つの悲劇:山岡荘八 1949年(昭24)1月~12月、雑誌「富士」連載。 1955年(昭30)東方社刊。 山岡荘八(1907~1978) は大著「徳川家康」「織田信長」をはじめとする歴史小説家として知られているが、人物伝や現代小説でも非常に多くの作品を残した。 この…

『折れた相思樹』 富澤有為男

折れた相思樹:富澤有為男 1950年(昭25)1月~1952年(昭27)6月 雑誌「富士」連載。2年半、30カ月に及ぶ。 1952年 講談社刊。(傑作長編小説全集第21巻所収) 富澤有為男(ういお)(1902~1952) は作家であると共に帝展に入選するほどの実力のある画家でも…

『花と波濤』 井上靖

1953年(昭28)1月~12月 雑誌「婦人生活」連載。 1954年(昭29)講談社刊。 井上靖を読むのは何十年ぶりかになる。地方都市の裕福な医者の家に育ったヒロインの紀代子は京都の叔母の許に寄宿して、何か仕事を見つけて働こうとするが、生活に追われる境遇で…

『銀の鞭』 加藤武雄

1930年(昭5)新潮社刊、「長篇三人全集第5巻」所収。 加藤武雄(1988~1956) は新潮社で文芸誌の編集に携わった後に作家生活に入った。昭和の戦前、戦中、戦後を通して、それぞれの時勢に合わせた作品を書いた。純文学者か通俗作家かをしいて区分する意味は…

『花の放浪記』 夏目千代

1953年(昭28)10月~1954年(昭29)12月 雑誌「婦人生活」連載。 1956年(昭31)朋友社刊。(プラタン叢書) 戦後昭和の女流作家は大抵名前だけは知っていたつもりだったが、この夏目千代は知らなかった。40歳近くになっていきなり処女作の長編を婦人雑誌に…

『遠い青空』 牧野吉晴

1956年(昭31)東京文芸社刊。 1951年(昭26)1月~1952年(昭27)6月 雑誌「婦人生活」連載。 戦中から戦後にかけての混乱期における相思相愛の男女を翻弄した運命の行き違いと愛情の純化を描く。両親の急死で孤児となったヒロインの知恵子は、唯一の身寄り…

『第二の接吻』 菊池寛

1925年(大14)改造社刊。当時、内務省の検閲により発禁図書とされた。このデジタルコレクションではかつて発禁本として保管されていたものを公開している。数カ所で風俗紊乱的表現と指摘された個所には朱筆の跡が残っている。下記にも一部引用したが、当時…

『人の罪』 小栗風葉

1919年(大8)新潮社刊。前後2巻。これは本当に埋もれていた佳品だと思った。日本の近代文学に限って使用される「純文学」という概念のラベルを貼るか否かというのは問題にすべきではないと思う。情景描写も丁寧な筆致で、文芸作品としてよく出来ていて、読…