明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『キリストの石』 九鬼紫郎

キリストの石:九鬼紫郎

1960年(昭35)日本週報社刊。

1963年(昭38)新流社刊。「女と検事」に改題。

 

タイトルは新約聖書の話から来ている。罪を冒した女を石打ちの刑にしようとする所で、キリストが、自身に罪を持たない人間だけがそれを行なえるのだと諭したという。

この小説においては、人を裁く検事の立場でありながら、自身に道義的な罪を抱えずにそれが行なえるのかと自問する場面が出てくる。しかし内容的には富豪の不審死をめぐるミステリーで、気軽に楽しめた。誰もが脛に傷を持っており、特にその傷が自分の担当する訴訟案件に関連した場合には、自分の地位や将来を危うくする覚悟にまで追い込まれるのはうなづける。筋の展開が整理整頓されて、読者はあまり混乱せずに結末に至れる。根深いミステリーファンならば、もっと混乱させてほしかったと願うかもしれない。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

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