明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『断頭台 : 怪奇小説』 星塔小史

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 1909年(明42)大学館刊。 作者の星塔小史(せいとう・しょうし)は生没年ほかも全く不明。明治後期に大学館から出された「奇絶快絶文庫」というシリーズ全8巻の著者で、この小説を含めその他数点を残しているのみなので、この版元のために一時的に筆名とした作家、例えば鹿島桜巷あたりなのかもしれない。静岡県のある山村で学究生活を送る男がふとした事で旧家の娘を助け、相思相愛となる。しかし男には一度だけ罪を犯した過去があり、その秘密を知る別の男を海外に追いやる算段をして何とか結婚式に漕ぎつけようとする。作者は明言していないが、「断頭台」というタイトルからして日本には馴染みがないし、登場人物の名前も妙に珍名になっているので、翻案物ではないかと思われる。それを除けばこなれた文体で書いていて、描写にテンポがあり、快適に読むことができた。副題の「怪奇小説」はほとんど無意味。読者の気を引くためか?☆☆☆

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は作者不明だが、当時この版元で多くの口絵を描いていた三井萬里かもしれない。

dl.ndl.go.jp

 

※山村で独り学究生活を送る男に対する最大級の賛辞(褒め過ぎ?)

「骨格は整ふて肉は痩せて居らず肥って居らずに好く緊まって、頬のやゝ蒼いのは反って気品が高く見え、額は広く眼は愛を含んで豊かに、唇の締った所から両頬に掛けて、無量の慈愛が浮んでゐる。併し彼れは単に情の人間ではない。一面に於ては不感の精神、秀英の気象、高尚な品位、敏活な動作等、凡て男子としての資格が、欠かさず備はって、其れに加ふるに、広遠な学識、明晰な頭脳、鋭敏な観察力、緻密な思考、快活流暢な弁舌、偉大な精力、驚くべき忍耐心等、凡ての能力が完全して・・・」(五、孤楼学者)



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