明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『日本ミステリー小説史』 堀啓子

2014年、中央公論新社刊。中公新書2285。筆者は明治期の新聞小説の傑作「金色夜叉」が英国小説の翻案であることを解明したことでも知られる。本書はコンパクトな新書版という手軽な分量の中に、日本における明治から戦後に至るまでのミステリー小説の発展史を概説したものである。序章から第2章までは江戸期から明治初期までで、文学史的ではあっても現代のミステリーに直接結びつく要素は少ない。第3章以降の黒岩涙香の登場、そして円朝や多くの講談師たちの口演速記本の流布、果ては毒婦や凶賊の犯罪実録の人気などが入り交じって探偵小説の隆盛に至ったのだと思う。どうしても名の知られた明治の文豪たちとの関係、つまり名作へのミステリー手法の影響を指摘して、文学への貢献度もアピールしがちなのだが、実際は有象無象の三文作家たちがこぞって探奇小説を書き、欧米の廉価小説を翻訳もしくは翻案していた勢いも無視できない。大正期以降の「新青年」を中心とした推理小説の開花期については人物間の逸話も豊富で興味深かった。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクションの機能拡大によって、当時の探偵小説全集や単行本が古書店から蔵出ししたように閲覧できるようになったのはありがたい。

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