1949年(昭24)1月、雑誌「苦楽」に掲載。
水谷準は戦前から戦中期にかけて長らく雑誌「新青年」の編集長として名を知られたが、探偵作家としても活躍するとともに仏文科の語学力を生かして、フランス物の推理小説の翻訳も多く手掛けた。このボアゴベの作品もその一つだが、新聞小説としては短かく、筋の展開は歯切れが良すぎるので、おそらく抄訳ではないかと思われる。
原題が Décapitée(デキャピテ)=「首を切られた女」という訳語になる。19世紀のパリでは四旬節の祭礼騒ぎで仮装舞踏会があちこちで開かれていた。そのどんちゃん騒ぎの中に届いた荷物の中身が美人の生首だった。セーヌ河岸から丘の上に伸びる広大なパッシーの邸宅に住むロシア貴族とその令嬢の謎の暮らしぶりにまで話が及ぶと、ルパン物の「金三角」や「虎の牙」の舞台を思い起こさせ、ボアゴベはルブランに先行してミステリー環境を作っていたのかと親近感を覚えた。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/3546630/1/11
挿絵は宮田重雄。