明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『大捕物仙人壺』 国枝史郎

大捕物仙人壺:国枝史郎

1942年(昭17)万里閣刊。

戦争真只中の昭和17年に刊行された国枝史郎の中短編集。表題作の中篇「仙人壺」を読んだ。江戸時代末期に官軍との重要な交渉役を果たした勝海舟や剣士伊庭八郎などの史実上の人物と、女軽業の一座、日本橋の大店の親子、旗本の次男などのフィクション上の人物たちが入り乱れる伝奇風の物語。創作した人物たちのほうが生き生きと動いている。何らかの史実と関わる個所では微妙な溝のような境界が感じられた。甲斐武田家に伝わる謎の仙人壺を探し出し、それが人手を転々と移るうちに吉凶両面の変事をもたらす話だが、フランス19世紀の幻想作家ネルヴァルの奇譚を思わせた。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1106588

表紙絵は小田富弥。



《小説までが「統制」されるという軍部ファッショの言論不自由時代にあって、比較的「自由」に――ということは便乗的な意図を持たずに、筆が揮えたのは、その作品の主人公がサムライであるいわゆる大衆小説作家ではなかったか、と思う。》(高木健夫「新聞小説史」昭和中期―戦時下の大衆小説)

 

 

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