明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『凍る地球』 高垣眸、深山百合太郎 合作

凍る地球:高垣眸

1987年(昭42)三一書房刊、少年小説大系 第5巻 高垣眸 集 所収。

1948年(昭23)12月~1950年(昭25)5月、雑誌「東光少年」連載。

 

戦前・戦中までは「怪傑黒頭巾」や「まぼろし城」などで伝奇時代小説の人気作家だった高垣眸が、戦後、科学技術畑の作家深山百合太郎と出会い、共同して少年雑誌に連載したのがこの『凍る地球』だった。終戦直後の時点で書かれた近未来SF小説とも言える。完結したのは1950年だが、物語はその15年後の1965年に始まり、1983年まで続く。少年向けの小説ながら内容は大人向けのレベルで、当時も難解だと言われていたようだ。

 

凍る地球:高垣眸2

予期せぬ太陽黒点の異変によって中性子ガンマ線の大量放射が起き、地球では原子炉の大爆発や電離層の大変化によって、気候全体の暑熱化、多湿化となり、海水位の上昇、風水害、植物の異常繁茂、病害虫の異常発生などで人類は滅亡の危機に陥る。物語はオムニバス形式で、各大陸における人々の生活に及ぼす変化と叡智を集めた対応策が描かれる。

特に敗戦後の日本がいかに目覚ましい復興を成し遂げたのか(執筆当時はまだ混乱期でありながら10数年後の復興を見事に予見していた)も熱心に語られる。当時吹聴されていた原子力万能の驕り昂った科学文明に対する批判の書であるとともに、人類の創意と工夫は結果的に新しい未来を切り開く力を生み出せるという肯定感を謳う思想にはうなづかざるを得ないと思った。読み応えがあった。☆☆☆☆



国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

東光少年創刊号「凍る地球」1948-12

https://dl.ndl.go.jp/pid/10998153/1/59

口絵および挿絵は村上松次郎。

*雑誌は途中欠号もあるので、全篇通読するには今のところ『少年小説大系第5巻』(公立図書館に所蔵)に頼るしかない。

 

凍る地球:高垣眸凍る3

「今までの釣合った環境なればこそ、人類がこの地上の最適舎として繁栄してきたのじゃ。新しい釣合(バランス)、異なった空間環境に於ては、忽ち不適者になり下がったのを気がつかんか。人間は新しい環境の地球上では、現在の覇者の王座から、急速に滑り落ち、やがては没落の一途をたどらなければならぬのじゃ。今後、地球を支配する主人公は、蠅かな? 蟻かな? 細菌類かな、いやもしかしたら、道端の雑草の類かも知れぬわい」(世界人類学総会の警告)



「当時の日本人は、誰でもが、非常に拙いことになった。とんでもないヘマをやったと悔んでいたのです。ところが、二〇年以上たった今日になって見ると、どんなすぐれた指導者、又は大政治家が計画したよりも、うまくいっていたことに気がつくのです。(…)これは、我々日本人が、先祖以来、長くこの島から移動せず、互に磨き合い訓練し合って、ある独自の精神文化面を、内在的に持っていた、その文化の力がこうした間に、いつの間にか民族全体の智恵として発揮されたのでしょう。」(終戦回顧)



アメリ進駐軍に対しては、きわめて従順でありましたが、併し、決して奴隷的に盲従していたのではなくて、その妥当な占領政策に対して、協力していたわけでした。つまり、各々の心中には確固とした自立精神を持ち、その判断のままに行動したのです。而も、先祖以来の文化的な力が、各人をほとんど同じ方向へ向かわせたので、あのような時代にも、テロ行為一つ起らなかったのだろうと思います。」(終戦回顧)

 

凍る地球:高垣眸4

「造物主である神は。恐らく、この地球ををば、人類のためにのみ作り出したのではあるまいと思う。人類は、いたずらに思い昂(あが)り、我意我欲をたくましくして地球を独占すべきものではなくて、他の全ての生物、すなわち一切の動物植物と共に、よき秩序と調和とを保って共存共栄すべきものでなくてはならない。これこそ大いなる造物主の意志なのだ。」(スタンリービル市民大会)



「科学兵器は日に月に恐ろしい進歩発達をとげ、弓矢鉄砲は、原子爆弾までに飛躍して、一瞬に数十万の人命を奪うことも易々たるものになってしまったではないか! これが果して、人類の繁栄の姿だろうか? いやいや人類もまた、他の生物たちと同じく、繁栄の極に達したゝめに、ようやく、滅亡への道を、自ら急ぎはじめた証拠でなくて何であろう!」(虚数文化国日本)



国立国会図書館国際子ども図書館主催 平成15年7月19日(土)

講演会「冒険小説の魅力について」二上洋一

https://www.kodomo.go.jp/event/event/event2003-05-01.html

 

 

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ