1921年(大10)博文館刊。
長田幹彦(1887~1964)は「祇園物」と称される花街の風俗を描く耽美的な作風と言われていたが、この作品は一風変わった探偵小説というふれ込みだったので手に取った。ある港湾都市の一角にある「九番館」という教会の跡に貧民のための施療院と子供の養育所を運営する医師と清楚な女性の話で始まる。描写は平易で読みやすく、宗教心のある慈善精神が漂う。米国で蓄財をした富豪の令嬢の誘拐事件から謎の黒衣の人物の跳梁などへ話が展開するが、推理よりも探偵活劇に近い味わいがあった。作中一カ所に「本牧」という地名が現れたので横浜のイメージが固まった。結末の締め方には現実味があった。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/968307
挿絵画家は不詳。