1903年(明36)文禄堂刊。最近読んだ菊池幽芳の『新聞売子』も催眠術が物語の重要な要素となっていたが、日本には明治20年頃に紹介されていた。それを事件の犯罪の手段として用いたのが本作品である。催眠術にかけられた人間がその意識や記憶、思考までも変えられてしまう点で、事件の解決まで収拾がつかなさそうにも思える。天仙の文体は現代口語文に整っていて読みやすいが、読者への必要な説明なしに状況を飛ばしてしまう乱暴な悪癖がある。それは叙述の技法の一つかも知れないが、筋の飛躍について行く側の苦労も感じた。☆☆
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