1951年(昭26)文芸図書出版社刊。山手樹一郎長篇傑作集、第2巻
1953年(昭28)雑誌読切倶楽部に連載。
雑誌「読切倶楽部」では「からす堂シリーズ物」として当時は大人気を博し、10年以上にわたる連載となった。その最初の8篇の短編集が「十六文からす堂」というタイトルで何度も出版された。
長屋住まいの浪人が「観相・手相、十六文からす堂」という旗印を下げて深編笠をかぶって土手の柳のそばに立っている。それに恋慕の情を抱いたのが「たつみ」という飲み屋の女将お紺である。この二人の交情に加えて、占いの依頼者からの事件の展開と解決を描く。初対面の人間の素性や悩みをズバリと言い当てるのは、シャーロック・ホームズ張りの観察眼の鋭さがあるし、武芸の腕前も相当なものがある。作者山手樹一郎の作品にはこのヒーローに対する絶対的な安心感があるという。
流れるような文体の読みやすさは天下一品である。連続ドラマ風の時代小説。小説を読む楽しみを満たしてくれる。通俗小説は読後は何も残らないとよく言われるが、人間は旨い物を食べたからと言ってそのことを細かくいつまでも覚えてはいない。それと同じで「あぁおいしかった」で終って何の文句があるというのだろうか? 雑誌連載では筋に合った挿絵がついていてより楽しい。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は木俣清史。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1667732