1919年(大8)樋口隆文館刊。前後続篇の全3巻の長編小説。オランダ植民地下のインドネシアのバタビヤ(現ジャカルタ)が主な舞台。妖艶な美人魔術師ジャグラー京子と現地でゴム園経営を失敗した日本人青年甘露寺滋との恋愛模様を挟みながら、日本領事一家との軋轢、悪徳ドイツ人実業家や中国人興業主との抗争など、異国情緒あふれる中でのスリルとサスペンス満載の娯楽映画のような展開でなかなか面白かった。
ただ残念なのは、デジタル化書籍としては元々の製本ミスで約40頁余が別の小説のものが入っていたことで、その部分は欠落している。
しかし作者黙禅の妙味は、文中に恋愛論や宗教論を議論する場面も入っていて、並みの通俗作家で終わらせない厚みが感じられる。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は山本英春。