1912年(大1)樋口隆文館刊。先日読んだ「鱗與之助」の続編になる。乳守(ちもり)とは地名で、大阪府堺市の昔遊郭があった一画を指す。その街道沿いの馬喰の娘お仙がタイトル名となっている。與之助の波乱万丈の物語が続く。彼は時化の海から廻船明神丸に助けられて大阪に行く。その後、美男を食い物にする妖姫の館からの脱出劇や、逃亡を助けたお仙の恋情からの逃避など、読み手を飽きさせない事件が続く。消えた與之助を追って旅に出たお仙は、偶然その妻お縫をそれと知らずに助け、一緒に旅するが、事実が明るみに出ると、お仙は嫉妬の炎でお縫への殺意さえ抱く。しかし健気にも正気に返り、最後はお縫のために自己犠牲で命を落とす。最終編の『池沼鯉之助』も與之助の変名で、関東に戻っての冒険譚が続く。この三部作は版元の広告文を目にしたのがきっかけで読み始めたが、大いに楽しむことができた。☆☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクションで所載。歌川国松の木版美人画が口絵に添付。