
1930年(昭5)3月~1931年(昭6)4月、雑誌「朝日」連載。
1931年(昭6)博文館刊。

作者の売り出し期30代の作品。作中で描かれる東京の風物には昭和初期のものだが、終戦直後期と似たような自由さとモダンさが感じられた。実業家の令嬢と結婚する音楽家の青年に対し、それを思いとどまらせようとする美貌の男爵夫人が謎をこじらせる。
犯人が仕組んだ「歯型」の計画に妙なこだわりを持ったためか、読み進める中で最も「興醒め」だったのは、うら若い令嬢の門歯が欠けて義歯となっていることと、それが就寝中に盗まれるという事件である。細部の描写には確かな文芸的力量を感じた。焦点が「歯型」でなければマシになったかも。☆☆

国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1181037
https://dl.ndl.go.jp/pid/1643755
春陽文庫版の挿絵は宮野美晴と思われる。