明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

昭和初期

『角兵衛獅子』 大佛次郎

1967年(昭42)講談社刊。大佛次郎少年少女のための作品集1所収。幕末の京都で謎の勤皇派の志士として活躍する「鞍馬天狗」シリーズの一冊。最初の出版は昭和2年、少年倶楽部掲載後、渾大防書房から刊行された。少年向けとして書かれたものだが、知名度が…

『女群行進』 浅原六朗

1930年(昭5)新潮社刊。新興芸術派叢書10。表題作の他、短篇13篇所収。作者は大正から昭和初期にかけての新興芸術派の一人としてモダニスム(=都会における風俗習慣や生活様式の現代化)風景を斬新な感性で描いている。当時の唯物論思考の流行によるものか…

『電話を掛ける女』 甲賀三郎

1930年(昭5)新潮社刊。新潮長篇文庫第3編。表題作の中篇の他、『地獄禍』の中篇と『笠井博士』の2つの短篇を収録。関東大震災後の復興期にあたる昭和初期の東京の風俗描写が新鮮に見えてくる。特に冒頭の渋谷の道玄坂の泥濘の道を歩く謎の女の姿は印象深…

『縛られた女たち』 三角寛

1939年(昭14)大日本雄弁会講談社刊。三角寛はライフワークの「山窩(サンカ)」に関する研究と著作に関わる以前は、朝日新聞の記者としてサツ回りの担当で刑事たちとの交遊が深かった。その折々に得られた刑事の体験談をもとに、得意の筆をふるった6つの…

『鉄鎖殺人事件』 浜尾四郎

(てっさ)1933年(昭8)新潮社刊。「新作探偵小説全集」第6巻。検事出身の私立探偵藤枝真太郎の活躍する長篇推理小説の一篇。銀座の裏通りにある事務所に入り浸る語り手の「私」を含め、ホームズとワトソンの枠組みの居心地の良さがある。タイトルは、被害…

『相川マユミといふ女』 楢崎勤

1930年(昭5)新潮社刊。新興芸術派叢書第22編。楢崎勤は作家である傍ら雑誌「新潮」の編集者でもあった。この本は表題作の他23篇を収める。都会に生きる孤独な女性の生きざまの寸景の集合体と言える。昭和初期のダンス・ホールで来客の相手をする踊り子とし…

『白日夢』 北町一郎

1936年(昭11)春秋社刊。作者は昭和初期から戦後期にかけて探偵小説やユーモア小説の分野で活躍した。多弁な語り口が特徴。この作品は関東大震災後の昭和初期、六大学野球のWK戦を背景に立て続けに起きる殺人事件とそれに振り回される関係者の行動ぶりが描…

『丹那殺人事件』 森下雨村

1935年(昭10)柳香書院刊。雨村は「新青年」の編集者でありながら、英米の推理小説の翻訳にも積極的で、ヴァン・ダイン、クロフツ、フレッチャーなどを紹介した。さらに自ら創作にも手を染め、力作を残した。この「丹那」も長篇で、最初は週刊朝日に連載さ…

『博士邸の怪事件』 浜尾四郎

1931年(昭6)新潮社刊。長篇文庫第20編。浜尾四郎は現職の検事として勤務した後、辞職して弁護士事務所を開設した。作家としては5年余りのみで、39歳で脳溢血で急死した。作風は非常に簡潔かつ明晰で、理知的な筆致で説得性がある。自身の経歴を反映させ…

『三十九号室の女』 森下雨村

1935年(昭10)朝日新聞社刊。週刊朝日文庫第1輯。昭和初期のレトロ感に満ちた東京の街並みの描写に心温かさを感じる。東京駅で呼び出しを受けた主人公が電話口に出ると先方で女性の叫び声が聞こえ、電話が切れる。発信元は有名ホテルだった。電話が貴重で…

『カートライト事件』 フレッチャー作、森下雨村訳

1928年(昭3)改造社刊。世界大衆文学全集第8巻。森下雨村訳。いわゆる円本時代に各社から出された全集本の一つ。フレッチャー (J.S.Fletcher, 1863-1935) はイギリスの小説家。広範囲なジャンルでの作家活動で知られたが、推理小説がメインであったと思われ…

『有憂華』 菊池寛

(うゆうげ)1932年(昭7)春陽堂刊、日本小説文庫1。タイトルの意味は「憂いのある花」のようなことで、物語の中心となる三人の女性のそれぞれの愛の不幸をかこつ姿を描く。菊池寛は頭脳明晰な人だったと言うが、感情の起伏や心理の変化を登場人物ごとに巧…