明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『化物語:妖怪奇変』 杉浦野外坊

化物語:妖怪奇変 杉浦野外坊

1907年(明40) 磯部甲陽堂刊。

 文筆家の杉浦野外(ここでは末尾の「坊」を外した)という人物に関しては、国木田独歩と一緒に雑誌の編集を行っていた人らしい。単行本としてはこの作品しか見当たらない。達意の文章で、まだ所々に文語体風の格調の高い表現が残っているが、ほとんど現代口語文体が確立しているように思う。

 

 作者が伝聞などで集めた怪談・奇談集だが、ほとんどが明治の世の中での話だという。折に触れて何度も記述しているが、明治維新の文明開化から40年経過した20世紀の世の中になっても、妖怪・怪奇話が絶えることなく語られていたということが興味深い。現在の視点からは、江戸も明治も大差がなさそうに思えるが、いかにテクノロジーが進歩した昭和であろうと、平成であろうと、令和であろうと、その種の話がなくなることがないのと何ら変わることではない。

 

 タネ明かしがわかるのは、タヌキやムジナの仕業だというのも明治的だった。また婚礼を目前にして病死した娘が、思いを果たすために亡霊となって許婚の男のもとを訪れるという話も二例紹介されていた。これには恐怖よりも同情の念を覚えた。怪奇現象の話はその事象の紹介までがすべてであり、決して原因の究明や対応策ではないことを再認識した。☆☆

化物語:妖怪奇変 杉浦野外坊、千秋・画

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/887770

口絵は千秋という署名が記されているが、それ以上の詳しい情報はない。

 

化物語:妖怪奇変 杉浦野外坊

《此の怪しむべき話と云ふは、想像の如く疑ひもなく妖怪談である、然も事実にして今に於て連続せられて居る、未開の時代ならば兎に角、開明の今日に於て、さる馬鹿気たる事あるべからずと、頭ごなしに斥(しりぞ)く人もあろうが、然しながら事実は遂に覆ふべからず、明治も四十年を経たる開明時代に於て、猶ほ且つ此の妖怪談があるのである、》(不思議の怨念)

 

《すると一人の女子(おんな)が門の前を通って、彼れ権之進に流眄(ながしめ)をくれながら過ぎ去った、髪は無造作に束ね数寄屋の衣服(きもの)を通して緋の長襦袢が映る所は、ドウしても淡紅(とき)色の衣服を着て居るとより見えない、芳紀(とし)の頃は十七八でもあらうか、餘り態(なり)ふりにも構わぬやう、淡白(あっさり)とした風姿(すがた)ではあるが、其の愛くるしい顔つき、其のしとやかなる容姿尋常一様(ただひととほり)の美人ではない、(---) 家中にも此の様な美人もあったか、と不審ながらも惚れ惚れして、久しく目送したが、暫くは惘然(ぼんやり)として、気も魂も抜けて終った様になった。》(消え失せる美人の屍體)



※神保町系オタオタ日記

黒岩比佐子『編集者国木田独歩の時代』(角川選書)への補足記事一覧(該当ページ順)

https://jyunku.hatenablog.com/entry/20110530/p1

『近事画報』創刊時の編集者はたった2人だったそうで、1人は『独歩』ですが、もう1人の『杉浦野外』はご存知でしょうか?