
1957年(昭32)同光社出版刊。
隠匿された由井正雪の軍資金百万両をめぐる人々の争いを描く三上於菟吉の伝奇小説。タイトルから見ると怪奇趣味と宝探しの安っぽい時代劇を思わせるが、四季の移ろいや風物描写に味わいがあり、さらに登場人物を極端に絞り込んだ対話による心理劇という手応えがあった。
主人公の春水主税は恩師の軍学者の遺言から、軍資金百万両の埋蔵先を教わり、関宿の東、下総の荒涼たる野原の古塚を掘り起こす。しかしそこには在り処を暗示する和歌しかなかった。
その埋蔵金の話を偶然盗み聞きした江戸の盗人半次は、地回り口入れ屋の組頭吉兵衛に協力を仰いで、主税の足取りを追う。
一方で領主の側室だった天花院お花は、未亡人となった余生を宝珠花の屋敷で送っており、ふとしたことで追手のかかった主税を助けて匿ううちに、激しい恋情に囚われる。彼女は主税の愛情を得るために宝の埋まる沼を探し出し、交換条件を迫る。
善悪の立場が各人の心境の変化に伴ってコロコロと変転するという展開は、性格劇的な人間味が滲み出て興味深かった。☆☆☆

なおこの作品は1957年に新東宝で映画化された。
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1645447/1/3
表紙絵は成瀬一富。

「あたしが色懇にこだはつてゐた日にや、何日(いつ)までたつたつて宝が世の中に出ない。と、すると、あたしといふものが大層罪が深くなるぢやないか。さうだらう、誰が考へてもさう思ふだらう。さあ、そこさ、それに心がつかなかつたといふのは、重々あたしの落度だよ。実は――百萬両といふ黄金が、地の底で泣いてゐらあね。冥加ないことだつたと気がつくと、あたしの眼に、今迄ビツタリひつ附いてゐた、 鱗のやうなものが剥げた気がしてね、急にそこらが明るくなる。と、同時に、かうした大事を握つてゐるものが、色の恋のと、憎んだり呪つたりしてゐると魔がさしてね。世に出る宝もつひに光りを照らす時を失ひはしまいかとそれはもう空おそろしくなつて、それで急にお前とも仲よくしようと思ひたつたのさ。」(毒酒)