
1899年(明32)田村熙春堂刊。
古来有名な鍋島藩の化け猫騒動の一部始終を語った一篇。出版年から推察すると神田伯龍は3代目と思われる。これまでにも化け猫をテーマにした作品を読んできたが、(下掲)予想以上に多かった。なぜか九州の物語が目立つ。最近読んだ橘外男の『怪猫屋敷』は大村藩としているが、この鍋島藩の話を借用していた。
囲碁の勝負がこじれて殺傷沙汰になるという因縁の碁盤から始まり、その碁盤が藩主に献上されると、殿は相手となった旧家の検校を斬り捨ててしまう。息子をうやむやに抹殺された母親の遺恨が飼い猫に乗り移る。猫の怨念はやがて藩内の用人の老母や城主の妾に入れ替わって様々な変異をもたらす。不思議なのは化け猫が乗り移るのはすべて身分の高い女性である点で、武士たちが天変地異や妖術を乗り越えながら剣で立ち向かう。ここにジェンダー間の闘争を感じるのは考えすぎかも知れない。化け猫の怪異の対象が特定の人物への復讐とわかっているならば、その人物を呪い殺すだけで終わるのだが、話としてはそうではなく、藩全体あるいは領地全域となるとやはり「闘争」色が強く感じられてきた。☆☆☆

国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/890191
口絵は鈴木錦泉。
《この時斬込みました鏡と云ふは、その後上野東叡山の猫堂と云ふに納まりありまして、維新前までは猫間明神と申して祀ってあったさうでございます》(第七回)
※追記
この本では、最後の猫退治の部分が次巻『伊東惣太』へ持ち越しとなっていた。大詰めですぐに終わりそうなのだが、もう一巻、ということで、該当の書目を探したが、NDLには収蔵がなかった。そこで類書の「講談全集36」の『鍋島猫騒動』で読み継ぐことにした。こちらは作者が匿名になっている。この本では残り1/3の部分だった。
『鍋島猫騒動』国会図書館デジタル・コレクション所載
https://dl.ndl.go.jp/pid/1662470/1/6
※参考過去記事;
『怪猫屋敷:山茶花屋敷物語』 橘外男
『怪談山王之古猫』 松林伯知
『人の怨』 行友李風
「団十郎猫」と称される怪猫の因縁話
『筑後騒動八百八猫』 浮世亭夢丸
『有馬猫騒動』 伊東陵潮