明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

講談物およびその類書

『怪談檮衣声』 香川倫三(宝州)

1889年(明22)駸々堂刊。作者の香川宝州は生没年など不詳。別に遠塵舎とも号した講談師だったが、これは口演の速記本ではなく、自前で書き下ろした作品ということになる。題名の「檮衣声」(とおきぬた)は唐の詩人李白の「子夜呉歌」にある《萬戸檮衣声》…

『空屋の美人』 松林伯知

1894年(明27)三友舎刊。講談速記本。演者の松林伯知(しょうりん・はくち)は松林派の高弟で、伯円に続き非常に多くの講談本を出した。明治中期頃の最初の探偵小説ブームでは近代的な題材の探偵講談も行われ、講談師自身が創作したものもある。これはその…

『天保怪鼠伝』 松林伯円

(てんぽう・かいそでん)1997年(明30)大川屋書店刊。上下2巻。江戸時代の有名な義賊・鼠小僧治郎吉の一代記を名講談師・松林伯圓(しょうりん・はくえん)が口演したのを速記した本になる。この他にも白浪物という怪盗たちを演題に上げたのが当時の聴衆…

『怪美人 伊藤夏子:探偵奇談』 山崎琴書

1909年(明42)島之内同盟館刊。この版元は大阪で講談本を主として刊行していた。山崎琴書(きんしょ)は講談師で、当世風の探偵講談も数多く手掛けた。人名のタイトル(特に女性の)をつけることは明治期には流行していたらしい。容姿端麗、立ち居振る舞い…

『人の怨』 行友李風

(ひとのうらみ)1915年(大4)樋口隆文館刊。前後終篇全3巻。作者(ゆきとも・りふう)は劇作家としても知られたが、この作品は「書き講談」のスタイルで語り口はなめらか、テンポも快い。江戸歌舞伎の花形、初代および二代目市川団十郎の芸道の事績と生き…

『家庭新講談』 細川風谷

1912年(明45)実業之日本社刊、全9篇。書名から想像すると「明治時代の家庭向けの新しい講談集」だろうと思ったが、題材はいずれも江戸時代の出来事で、武士の妻女に関する逸話集のようなものだった。中でも印象に残ったのは、最初の「誉の夫婦」伊達藩の…

『美人と短銃』 松林若円

1898年(明31)駸々堂刊。(びじんとぴすとる)探偵小説叢書28集。明治中期になると探偵小説が人気を集め、各社からシリーズを組んで盛んに出版されるようになった。欧米の推理小説に比べればまだまだ物語としての骨組みが稚拙だが、犯罪の発生から犯人の逮…

『筑後騒動八百八猫』 浮世亭夢丸

1918年(大7) 樋口隆文館刊。講談速記本の一つで怪談話の部類。正続2巻。演者の浮世亭夢丸は昭和期の関西の落語家の名前でもあるのだが、この本の出版はそれよりも年代が古く、まったくの別人と思われる。講談師としての情報は、明治末期から大正時代までの…

『有馬猫騒動』 伊東陵潮

1899年(明32)盛陽堂刊。講談師・伊東陵潮(りょうちょう)の口演を速記したいわゆる講談本。上下2巻で読み応えがあった。所謂化け猫の怪談話の一つである。九州久留米藩の有馬氏の江戸屋敷で、狂犬に追われた猫を助けた腰元お滝が当主の側室に召し上げら…

『新女夫塚』 安岡夢郷

(しんめおとづか)1925年(大14)樋口隆文館刊。作者の安岡夢郷(むきょう)は講談師出身を思わせる語り口で文体がなめらかで読みやすい。時は元禄時代、大阪、難波新地の芸者お艶が質屋の御曹司を見染めたことが発端で、身勝手にも和歌山の在に駆け落ちす…

『乳守のお仙』 如鬼坊(中村兵衛)

1912年(大1)樋口隆文館刊。先日読んだ「鱗與之助」の続編になる。乳守(ちもり)とは地名で、大阪府堺市の昔遊郭があった一画を指す。その街道沿いの馬喰の娘お仙がタイトル名となっている。與之助の波乱万丈の物語が続く。彼は時化の海から廻船明神丸に…

『鱗 與之助』 如鬼坊(中村兵衛)

(うろこ・よのすけ)1912年(大1)樋口隆文館刊。作者の如鬼坊(中村兵衛)は当時の神戸又新日報の記者だったというが、生没年他もほとんど不詳。下総・印旛村の庄屋の息子與之介が印旛沼の主とされた大鯉の助命を願ったため、神通力(透視力)を授かり、…