記者作家系
1913年(大2)樋口隆文館刊。前後続の全3巻。明治改元直後2~3年の社会制度の定まらない混乱期における、新橋の美人花形芸者梅吉とその一子花子の波乱万丈の物語。タイトルの「千里眼」は花子に備わる透視能力のことを指すつもりだったが、この3巻ではま…
1911年(明44)万里洞刊。明治41年に創刊の日本初の週刊誌「サンデー」に連載されたフランスの中短編の翻訳を3つまとめて単行本で出した。最初の『恋の仇討』は軽妙な作風で当時人気のあったポール・ド・コック(Paul de Kock, 1793-1871) の中篇(原題名不…
1910年(明43)小宮万次郎刊。おどろおどろしいタイトルから想像すれば怪談話だろうと思われたが、読み始めて江戸の剣術物だとわかった。雪の夜に軒先で行き倒れで死んだ巡礼女が抱いていた赤子を老夫婦が引き取って育てる。大きくなるにつれ、教えもしない…
(こいのうらみ)1917年(大6)樋口隆文館刊。武田仰天子(ぎょうてんし)は明治から大正にかけての新聞小説家として人気があった。版元の広告には《武田仰天子君の作には、此の人独特の一種の妙味が有りますので、それで多数者に愛好せられるのでありますが…
1893年(明26)金松堂刊。清水定吉は幕末から明治前期にかけて実在した凶悪なピストル強盗殺人犯だった。五十歳で逮捕されるまで捜査の網を巧みに潜り抜け、大胆な犯行を繰り返した。警察内部に取り入って情報を得るほか、遊興にふけることをせず、単独犯行…
1913年(大2)春江堂刊。文字通り「竜頭蛇尾」の作品だった。作者大原天眠の名前はこれ一作にしか残っていない。冒頭の東京の奥多摩の山中を迷った若い狩猟家と鄙には稀な謎の美女との出会いなどは伝奇的な香気があった。女は潜伏中の強盗団の一味だった。明…
1887年(明20)イーグル書房刊。ここでの「美少年」とは「好青年」のような概念であり、いわゆる「美男子」ではない。秩父の山村で育った2人の少年が東京に送り出されて高等教育を受けるが、一方は堅実に勉学に打ち込み、もう一方は怠惰で無軌道な生活を送…
1887年(明20)イーグル書房刊。これもボッカチオ(ボッカス)の「デカメロン」からの一話を翻訳し、多少手を加えて中篇としたもの。菊亭静は、高瀬羽阜(うこう)の多くの筆名の一つとしてウィキペディアに掲載されている。彼はジャーナリストの他、社会事…
(えんおう=オシドリ)1887年(明20)高崎書房刊。ボッカチオの「デカメロン」中の一話を菊亭静(きくてい・しずか)が翻案、訳述したもの。西洋文学の翻訳としては維新後早い方に当たる。飛びぬけた美女が裕福だがとてつもなく醜い男とやむを得ず結婚して…
1906年(明39)春陽堂刊。前後2巻。池雪蕾(いけ・せつらい)訳。原作者は英国の小説家ウィリアム・ル・キュー (William Le Queux, 1864-1927)、 父親がフランス人だった。出版当時はなぜか「ラ・キューズ」と表記された。原題は「仮面」(マスク Mask)ロ…
1903年(明36)駸々堂刊。国会図書館デジタル・コレクションhttps://dl.ndl.go.jp/ ではキーワード検索すると、多くの関連文献が表示される。さらにそれを NDC分類(9類文学)で絞り込むと、読みたくなりそうな小説類が出てくる。その一覧表を保存しておい…
1909年(明42)大学館刊。 作者の星塔小史(せいとう・しょうし)は生没年ほかも全く不明。明治後期に大学館から出された「奇絶快絶文庫」というシリーズ全8巻の著者で、この小説を含めその他数点を残しているのみなので、この版元のために一時的に筆名とし…
(なさけのひと)1905年(明38)隆文館刊。明治の後期になると女性の社会進出への意識が高まり、女性の生き方を主題とする「家庭小説」というジャンルの作品が多く書かれるようになった。田口掬汀(きくてい)もそうした作家の一人である。表題作の中篇「情…
1893年(明26)今古堂刊。前後2巻。原作は明記されていないが、フランスの新聞小説(フィユトン)作家、おそらくボアゴベかガボリオと思われる。パリを舞台とした探偵・追跡劇だが、丸亭素人(まるてい・そじん)も涙香と同様に、人物や地名を和風に置き換…
1914年(大3)隆文館刊。口絵を切り取った後らしく、本の表紙から口絵と本文の最初の2頁までが欠落していた。当時は口絵だけ集めるためにこうした切り離しは少なくなかったようだ。別途「木版口絵総覧」から鏑木清方のものと判明。この一枚の絵を見ただけで…
(ちぞめのハンカチ)1909年(明42)樋口隆文館刊。花鳥叢書第1巻。深夜の巡視中にある洋館での殺人事件に駆けつけた大石巡査は、数日後に刑事となる辞令を受けて自ら捜査に取り組むことになった。人力車夫の話から、当夜現場から車に乗った娘が血染めのハン…
1915年(大4)樋口隆文館刊。前後2巻。ヒロインは美人泥棒の容子で、横浜の医師の家から劇薬を盗もうとしていた。この女の正体は中国人の革命の闘士、鄭紫蘭だった。時代背景は辛亥革命直後の混乱期で、中国では軍閥に支持された袁世凱が実権を掌握していた…
1906年(明39)隆文館刊。黒法師も渡辺霞亭の筆名の一つで、続けて2作読むことになった。旧家の令嬢で両親の遺産を相続し、家令の献身的な奉仕で何不自由なく暮らしてきたヒロイン龍子は、結婚相手と心に決めていた男が別の女と結婚してしまい、嫉妬で自暴…
1900年(明33)金松堂刊。渡辺霞亭(かてい)は明治大正期の作家で、多くの筆名を持ち、新聞小説を量産した。「探偵実話」の副題の通り、実際に起きた事件に基づいて再構成された小説。冒頭に、挙動不審な男たちによって埋められた箱の中から美人の他殺死体…
1901年(明34)金槇堂刊。作者の遅塚麗水(ちづか・れいすい)は作家、新聞記者で紀行文の大家として知られた。表題の「吹雪巴」(ふぶきどもえ)は《雪は卍巴(まんじともえ)に降りしきり》など、互いに入り乱れて雪が降る様子を形容する明治期の言い方で…
1911年(明44)三芳屋書店刊。前後2巻のやや長編。筋の進行、展開ともに新聞の連載小説風に出来ている。ヒロイン菊園露子は劇団女優の花形だが、その出生に秘密がある。伯爵家の庇護の下に演舞をはじめ諸芸全般を極め、護身術も備えた絶世の美女という設定…
(しんめおとづか)1925年(大14)樋口隆文館刊。作者の安岡夢郷(むきょう)は講談師出身を思わせる語り口で文体がなめらかで読みやすい。時は元禄時代、大阪、難波新地の芸者お艶が質屋の御曹司を見染めたことが発端で、身勝手にも和歌山の在に駆け落ちす…
1901年(明34)青山嵩山堂刊。武田仰天子(たけだ・ぎょうてんし)は新聞記者兼作家だった。珍しい一文字のタイトル。これだけでも読んでみようかなという気になる。まだ江戸時代の雰囲気の残る明治初期の話。浅草の古刹の敷地内の貸家をめぐって、消えた死…