戦後昭和期
びろうどの眼:小島政二郎 1957年(昭32)東方社刊。 小島政二郎(まさじろう)は市井物、風俗小説が多いのだが、これは異色の探偵小説だった。謎の男から財界人を狙って大金を脅迫する髑髏マークの手紙が次々に届く。その約束や期限を守らない場合は車へ爆…
一匹獅子:子母沢寛 1956年(昭31)1月~12月、雑誌「小説俱楽部」連載。 1956年(昭31)同光出版社刊。 江戸の町中に住む蘭方医元応宛てに長崎のシーボルトからもたらされた秘薬の争奪戦が物語の中心となる。表向きは幕府の禁制となっていたが、御典医岩村…
三つ首塔:横溝正史 1955年(昭30)~12月、雑誌「小説俱楽部」連載。 1977年(昭52)講談社刊。 兵庫県の辺鄙な湯治場に建てられた供養塔は、そこに木製ながらも三つの首を納めたというが、その塔に財宝が隠されているわけでもなかった。ヒロインの音禰(お…
風吹かば吹け:北条誠 1958年(昭33)1月~12月、雑誌「小説俱楽部」連載。 1958年(昭33)桃源社刊。 北条誠の得意とするメロドラマ作品の一つ。美しい人妻の「よろめき」と書けば鼻白む向きもあるだろう。老実業家社長の後妻となったヒロイン由岐子は数年…
祇園天狗風流剣:陣出達朗 1958年(昭33)2月~7月、雑誌「小説倶楽部」連載。 1958年、東京文芸社刊。 有名な「鞍馬天狗」の模作であることは作者も重々承知の上だろう。雑誌連載時はタイトルの末尾が「斬魔剣」だった。勤王派と佐幕派が対立する幕末の京都…
白鳥は告げぬ:藤沢桓夫 1957年(昭32)東方社刊。 (しらとりはつげぬ)京都の映画撮影所の脚本部に勤めるヒロインの筧梨花子の兄は、失恋がもとで自殺していた。その相手の男女は若手監督の宮崎と女優の笛美なのだが、彼女は何とか亡兄の復讐をしたいと思…
白鬼屋敷:高木彬光 1958年(昭33)桃源社刊。 江戸の荒れ果てた屋敷に隠された海賊の財宝をめぐる伝奇小説。口入れ屋の津乃国屋に寄食する浪人神崎安兵衛は夜道で若い女を黒頭巾の男から救う。女の身元は不明のまま、その懐中に持っていた二枚の黄金銭が多…
ろまんす横丁:鹿島孝二 1953年(昭28)東方社刊。 鹿島孝二 (1905~1986) は戦中から戦後期にかけての明朗小説家である。この本は15の掌編集で、軽妙な語り口で平凡な市民生活の諸様相を描いている。「ロマンス」という言葉は今となっては古風な響きとな…
死神博士:高木彬光 1950年(昭25)5月~ 雑誌「少年少女譚海」連載。 1951年(昭26)偕成社刊。 高木彬光の生み出した名探偵神津恭介(かみつ・きょうすけ)の活躍する少年少女向けの探偵活劇。ある夜に大学病院の外科部長が謎の女によって拉致され、死んだ…
右門捕物帖:佐々木味津三 1956年(昭31)鱒書房刊。 「むっつり右門」の捕物帖は全部で38話にのぼる。この鱒書房版では全5巻に分かれ、第1巻は第一番手柄「南蛮幽霊」から第七番手柄「村正騒動」までを収める。すべての話が「第〇番手柄」と整理され、…
夜光怪人:横溝正史 2021年(令3)柏書房、横溝正史少年小説コレクション3「夜光怪人」所収。 1949年(昭24)5月~1950年(昭25)5月、雑誌「少年少女譚海」(たんかい)に連載。 横溝正史による少年向け探偵小説。仮面、怪盗、変装などのキーワードからも…
怪龍島:香山滋 1985年(昭60)国書刊行会、香山滋名作選。 1949年(昭24)1月~ 雑誌「少年世界」連載。 香山滋は大蔵省の役人だったが、戦後になって40歳を越えてから作家活動に入った。古生物学を独学で修めたため、恐竜や怪獣が登場する作品が多い。 …
凍る地球:高垣眸 1987年(昭42)三一書房刊、少年小説大系 第5巻 高垣眸 集 所収。 1948年(昭23)12月~1950年(昭25)5月、雑誌「東光少年」連載。 戦前・戦中までは「怪傑黒頭巾」や「まぼろし城」などで伝奇時代小説の人気作家だった高垣眸が、戦後、科…
悪魔の口笛:高木彬光 1952年(昭27)7月~1953年(昭28)7月、雑誌「少女世界」連載。 1960年(昭35)ポプラ社刊、少年探偵小説全集第4巻所収。 戦後創刊された少女向け雑誌「少女世界」に連載された。この時期は少年少女向けの読物の全盛時代であり、文豪…
少年探偵長:海野十三 1948年(昭23)12月~1949年(昭24)11月、雑誌「東光少年」連載。 1954年(昭29)東光出版社刊。 1960年(昭35)ポプラ社刊、少年探偵全集第3巻。 1967年(昭42)ポプラ社刊、名探偵シリーズ第6巻。 海野十三(じゅうざ)の絶筆となっ…
夜の門:川口松太郎 1949年(昭24)日比谷出版社刊。 ヒロインの章子はエミー野口という芸名で上海のキャバレーの楽団でヴァイオリン奏者兼歌手として働いていた。終戦となって、在留していた日本人はすべて喪失感に囚われ、虚無的に生きるしかなかった。男…
魔子恐るべし(上):宮本幹也 1953年(昭28)6月~1954年(昭29)7月、「東京タイムズ」連載。 1954年(昭29)桃園書房刊。 魔子恐るべし(上):宮本幹也2 八ヶ岳に住むサンカ(山窩)の族長の娘魔子が列車で終戦直後の東京に出てくる。サンカ(山窩)とは…
悪魔を買った令嬢:川口松太郎 1949年(昭24)日比谷出版社刊。 1949年(昭24)1月~12月 雑誌「スタイル」連載。 川口松太郎の現代小説の一作。彼は通俗小説の大家と呼ばれたが、小説というものが「何かを物語るもの」という本質を有するかぎり、快筆をふる…
踊子殺人事件:武田武彦 1946年(昭21)岩谷書店、岩谷文庫10。 武田武彦という探偵小説作家の名前はあまり聞かなかったが、調べてみると終戦直後に創刊された雑誌「宝石」の編集にたずさわった人で、その合間に作品を書いていたようだ。デジタル版で岩谷文…
慶安水滸伝(上巻):村上元三 1953年(昭28)1月~10月、時事新報、大阪新聞で連載。 1954年(昭29)大日本雄弁会講談社刊、上下2巻。 江戸初期の由井正雪の乱を記した史書「慶安太平記」は後世に講談や歌舞伎、絵草紙などに形を変えて取り上げられていた…
その名は女:大林清 1955年(昭30)1月~7月、中部日本新聞、西日本新聞に連載。 1955年(昭30)大日本雄弁会講談社刊。(ロマンブックス) タイトルの由来は、シェークスピアの「ハムレット」中のセリフ「弱き者よ、汝の名は女なり」だと思われる。事業の失…
君は花の如く:藤沢桓夫 1955年(昭30)7月~1956年(昭31)東京タイムス紙連載。 1956年(昭31)大日本雄弁会講談社刊。 1962年(昭37)東方社刊。 大阪の化粧品会社で働くヒロインの朝代には暗い過去があった。東京で男に翻弄される生活を断ち切るために単…
浮雲日記:富田常雄 1952年(昭27)湊書房刊。 1955年(昭30)東方社刊。 明治中期の自由民権運動から日清戦争に向けて、まだ日本の近代化が形を成すに至らない時代の青春群像を描いている。武芸全般を修めた主人公の春信介は、身体一つで上京するが、すぐに…
不連続殺人事件:坂口安吾、高野三三男(画) 1947年(昭22)初秋号~1948年(昭23)7月号、雑誌「日本小説」連載 1956年(昭31)河出書房、探偵小説名作全集 第9巻所収 不連続殺人事件:坂口安吾1 終戦直後に創刊された雑誌「日本小説」に連載された坂口安…
君失うことなかれ:富田常雄 1953年(昭28)東方社刊。 1958年(昭33)東京文芸社、富田常雄選集第8巻所収。 タイトルの「失ってほしくない」と願うのは、女性の心と身体の両方の処女性と言えるものを指していると思われる。ここでも終戦直後の東京郊外の世…
白猫別荘:北村小松 1948年(昭23)新太陽社九州支社刊。 怪奇小説集と銘打った短編集全9篇を収める。終戦直後の刊行で版組や用紙が粗悪のため、印字も不鮮明で読みにくい。怪奇趣味というよりも、人間心理の奥底にある不可解なものを完全には否定も肯定も…
花ふたたび:阿木翁助 1956年(昭31)桃源社刊。 阿木翁助(1912~2002) は戦後昭和期のラジオ・テレビの脚本家として知られた。あとがきによると、この作品は連続ラジオ・ドラマとして全国21局で昭和30年6月から約1年半、433回にわたって放送され…
詩と暗号:木々高太郎、東郷青児 1947年(昭22)新太陽社刊。 終戦直後の雑誌「モダン日本」に連載されたという連続探偵小説と銘打った8篇からなる。何らかの理由から医師としてではなく、理科系の教師として信州と思われる田舎町の高等女学校の教師として…
女学生:藤沢桓夫(たけお) 1947年(昭22)新太陽社刊。 終戦直後の大阪の寄宿舎のあるミッションスクールが舞台となっている。夜の庭園を散歩していたヒロインの目の前に青年が塀を乗り越えて入って来た。アルセーヌ・ルパンまがいだと思って黙って見てい…
運命の車:山田風太郎 1959年(昭34)桃源社刊。 明治時代の歴史的事件の中に、訪日中のロシア皇太子が警察官に刀で切りつけられるという大津事件があった。その犯人を真っ先に取り押さえたのは一行を乗せていた人力車の車夫の二人だった。事件後、彼らは日…