明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

戦後昭和期

『広島悲歌』 細田民樹

広島悲歌:細田民樹 1949年(昭24)世界社刊。 1949年(昭24)10月、雑誌「富士」掲載:『美しき大地』(中間部) 1949年(昭24)11月、雑誌「富士」掲載:『山河の歌声』(終末部) 被爆直後の広島とそこに暮らす人々の惨状に直接触れながら、その核兵器使…

『清き泉を掘らん』 芹澤光治良

清き泉を掘らん:芹澤光治良 1951年(昭26)4月~1952年(昭27)4月、雑誌「婦人生活」連載。 1954年(昭29)北辰堂刊。 抽象画を学ぶ画家の卵の青年とその友人の哲学科の学生、その妹のフランス語教師、そして音大生を目指す娘という男女二組を中心にした恋…

『六つの悲劇』 山岡荘八

六つの悲劇:山岡荘八 1949年(昭24)1月~12月、雑誌「富士」連載。 1955年(昭30)東方社刊。 山岡荘八(1907~1978) は大著「徳川家康」「織田信長」をはじめとする歴史小説家として知られているが、人物伝や現代小説でも非常に多くの作品を残した。 この…

『風吹かば吹け』 大林清

風吹かば吹け:大林清 1950年(昭25)4月~1951年(昭26)12月、雑誌「新婦人」連載。 1954年(昭29)東京文芸社刊。装丁は風間寛。 冒頭の戦争末期、昭和19年の別荘地軽井沢での作中人物の登場の仕方を読むと、その性格設定が「風と共に去りぬ」の人物像を…

『折れた相思樹』 富澤有為男

折れた相思樹:富澤有為男 1950年(昭25)1月~1952年(昭27)6月 雑誌「富士」連載。2年半、30カ月に及ぶ。 1952年 講談社刊。(傑作長編小説全集第21巻所収) 富澤有為男(ういお)(1902~1952) は作家であると共に帝展に入選するほどの実力のある画家でも…

『地獄から来た女』 田村泰次郎

1948年(昭23)2月~12月 雑誌「りべらる」連載。 1948年(昭23)太虚堂書房刊。 終戦直後の混乱期に大都市の繁華街などでは生活苦から売春する多くの女性たちが現れた。そうした女性たちの更生と自立を目的とした寮施設を運営する青年長見は、ある夜警察の…

『犯罪の足音』 岡田鯱彦

犯罪の足音:岡田鯱彦 1958年 光風社刊。 1963年 青樹社刊(青樹ミステリー) 岡田鯱彦(しゃちひこ)は国文学者で、古典に題材を求めたミステリー作品もある。これは戦後期に書かれた現代物の一つである。 結核に感染した大学一年生の青年が、病後の療養の…

『遠山の金さん』 山手樹一郎

1961年(昭36)講談社刊、山手樹一郎全集 第29巻 「遠山の金さん」とは、後に遠山金四郎景元として江戸北町奉行および南町奉行などを歴任した人物。柳橋の船宿相模屋の二階に居候する遊び人の金さんはもともと旗本の次男坊の身の上だが、家を飛び出して町人…

『剥製人間』 香山滋

剥製人間:香山滋 1949年(昭24)7月~9月 雑誌「富士」連載。(初出時は『女體剥製』) 1948年(昭23)10月~11月 雑誌「富士」連載。『恐怖の仮面』 1955年(昭30)東方社刊。 東方社の単行本には表題作『剥製人間』と『恐怖の仮面』の中篇2作と短篇4作…

『愛と罪』 中野実

1949年(昭24)8月~1950年(昭25)12月 雑誌「婦人生活」連載。 1951年 東方社刊。 終戦直後の東京の、焼跡が残り、闇市がはびこる中での人々の生活。主人公の舞台装置家岩村は身寄りのない若い女性の来訪を受け、モデルでも下女でも使ってほしいとせがまれ…

『ノア』『三界萬霊塔』 久生十蘭

ノア1 1950年(昭25)2月~4月 雑誌「富士」連載。『ノア』 1949年(昭24)7月 雑誌「富士」掲載。『三界萬霊塔』 戦後に復刊したと公言する一般大衆向けの文芸雑誌「富士」は国土の復興を目指す人々の旺盛な読書慾を満たして大いに販売数を伸ばした。版元…

『花と波濤』 井上靖

1953年(昭28)1月~12月 雑誌「婦人生活」連載。 1954年(昭29)講談社刊。 井上靖を読むのは何十年ぶりかになる。地方都市の裕福な医者の家に育ったヒロインの紀代子は京都の叔母の許に寄宿して、何か仕事を見つけて働こうとするが、生活に追われる境遇で…

『悪魔博士』 西條八十

1948年(昭23)12月号~1949年(昭24)8月号、雑誌「東光少年」連載。 1953年(昭28)偕成社刊。 東光少年 終戦直後の昭和20年代には軍国主義の抑圧から解放されて、数多くの雑誌が出版された。少年少女向けの雑誌も同様で、この「東光少年」も国会図書館デ…

『母孔雀』 竹田敏彦

1956年(昭31)1月~12月 雑誌「小説倶楽部」連載。 1956年(昭31)東方社刊。 ヒロインは若後家の身ながらも兜町で「紅将軍」の異名を持つヤリ手の証券会社経営者となっている。女手ながら美貌を武器に、強引な手腕で亡夫の後に会社を立て直した。物語の前…

『われ恋やまず』 長谷川幸延

1952年(昭27)11月~1954年(昭29)3月 雑誌「婦人生活」連載 1954年(昭29)和同出版刊。 長谷川幸延(こうえん)(1904~1972)はラジオドラマや映画の脚本家としても知られ、大阪の人情と風俗を描いた小説家である。生涯で7回も直木賞にノミネートされ…

『孤独の罠』 日影丈吉

1963年(昭38)講談社刊。日影丈吉はフランスのミステリーの翻訳家としてのほうが馴染みがあった。この作品は昔読もうと思って書棚に並べたこともあったが、読めなかった経緯がある。どこかジョルジュ・シムノンに似た作風に思えた。 群馬県の渋川とその周辺…

『青い星の下で』 藤沢桓夫

1957年(昭32)10月~1958年(昭33)12月、雑誌「読切俱楽部」連載。 1959年(昭34)東方社刊。 藤沢桓夫(たけお)(1904~1989) は昭和初期には新感覚派の作家として知られた。戦後期を経て昭和の末まで大阪を基点に多くの小説作品を残した。 この作品も大…

『花の放浪記』 夏目千代

1953年(昭28)10月~1954年(昭29)12月 雑誌「婦人生活」連載。 1956年(昭31)朋友社刊。(プラタン叢書) 戦後昭和の女流作家は大抵名前だけは知っていたつもりだったが、この夏目千代は知らなかった。40歳近くになっていきなり処女作の長編を婦人雑誌に…

『不知火奉行』 横溝正史

1956年(昭31)6月~8月、雑誌「小説倶楽部」連載。 1957年(昭32)同光社出版刊(新作・大衆文学全集)。 横溝の時代物の一冊。表題作は雑誌掲載時に「江戸のルパン」と副題が付いていた。黒頭巾の謎の浪人が「不知火」という名前で参上するが、その正体が…

『永遠にわれ愛す』 田村泰次郎

1955年(昭30)東方社刊。 1951年 6月~1952年 10月、雑誌「婦人生活」連載。(雑誌連載は前半欠号) 戦後の文学界を代表する一人、田村泰次郎 (1911-1983) は代表作『肉体の門』などで性情や肉欲の表現を自由に描いて注目されたが、この婦人雑誌への連載小…

『青貝進之丞人斬控』 高木彬光

1957年(昭32)9月~1958年(昭33)5月 雑誌「読切俱楽部」連載 1958年(昭33)東京文芸社刊。「女自雷也」「魔像往来」「妻恋坂の決闘」など7篇所収。 高木彬光の剣客物の時代小説。江戸の両国橋の袂で自分の命を売るという商売をする浪人・青貝進之丞は目…

『べらんめえ剣法:若さま侍捕物手帖』 城昌幸

1952年(昭27)3月~1953年(昭28)2月 雑誌「読切俱楽部」連載 1958年(昭33)同光社出版刊。「手妻はだし」「天狗隠し」「名指し幽霊」など12篇所収。 城昌幸の代名詞ともなった『若さま侍捕物手帖』のシリーズは戦前の1939年(昭16)に第1作を書いてから…

『遠い青空』 牧野吉晴

1956年(昭31)東京文芸社刊。 1951年(昭26)1月~1952年(昭27)6月 雑誌「婦人生活」連載。 戦中から戦後にかけての混乱期における相思相愛の男女を翻弄した運命の行き違いと愛情の純化を描く。両親の急死で孤児となったヒロインの知恵子は、唯一の身寄り…

『江戸の恋人達:銭形平次捕物控』 野村胡堂

1950年(昭25)矢貴書店刊。新大衆小説全集第10巻所収。長篇を読むのは2作目となるが、事件の骨組みが最初の『娘変相図』と似通っていて、なかなか捜査の糸口が見えないのもむしろ平次たちの行動に緩慢さを感じた。未遂も含めて連続殺傷事件の被害者が多く…

『隠れた手』 甲賀三郎

1957年(昭32)東方社刊。甲賀三郎(1893-1945) の中篇集。表題作『隠れた手』と『血染の紙入』の二作を読んだ。前者は一流ホテルの客室に闖入した青年が見聞きした殺人事件のトリックの謎解きだが、時間軸の中に偶然が組み込まれる「あり得なさ」を感じた。…

『娘変相図:銭形平次捕物控』 野村胡堂

1950年(昭25)矢貴書店刊。新大衆小説全集第10巻所収。銭形平次物は長中短合わせて383篇にのぼるそうだが、まともに読んだのは今回が初めてになる。胡堂の文体は「でした、ました」という丁寧な語尾に特徴がある。傲慢な読者でも語り手がへりくだった姿…

『花の肖像』 藤井重夫

1960年2月~12月 雑誌『読切倶楽部』連載。 1961年(昭36)東京文芸社刊。 藤井重夫(1916-1979)は復員後、新聞記者を経て作家活動に入った。世代的には戦中派になる。一度芥川賞候補となる。この作品は戦後期の服装学院に通う若い女性三人組を中心とした青…

『神秘の扉』 高木彬光

1955年(昭30)東京文芸社刊、タイトルは『復讐鬼』 1960年(昭35)浪速書房刊、『神秘の扉』 神奈川県の海沿いの田舎町に建つ広荘な洋風建築の松楓閣に暮らす富豪の朝比奈家に次々に起きる失踪事件。古文書の整理に雇われた秘書、群司の眼を通して丁寧に語…

『満月城秘聞』 山岡荘八

(まんげつじょうひもん)1955年(昭30)偕成社刊。山岡荘八は「徳川家康」を始めとする歴史小説の大家だが、その他の作品、特に少年少女向けの歴史物も少なくない。これも青少年向けの偕成社刊行による単行本の一つで、10代の少年少女を主人公とする時代…

『この世の花』 北條誠

1956年(昭31)東京文芸社刊、第1巻~第3巻。 1960年(昭35)東方社刊、上下2巻。 1963年(昭38)春陽堂文庫、正続2巻。 戦後の1955年(昭30)にラジオ・ドラマとして放送され、大評判となった作品の原作である。単行本として合わせて900頁を超える大長…