明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2023-01-01から1年間の記事一覧

『キリストの石』 九鬼紫郎

キリストの石:九鬼紫郎 1960年(昭35)日本週報社刊。 1963年(昭38)新流社刊。「女と検事」に改題。 タイトルは新約聖書の話から来ている。罪を冒した女を石打ちの刑にしようとする所で、キリストが、自身に罪を持たない人間だけがそれを行なえるのだと諭…

『新聞小説史(明治篇)』 高木健夫

新聞小説史(明治篇):高木健夫 1970年(昭45)4月~1973年(昭48)12月、雑誌「新聞研究」連載、全45回。 1974年(昭49)国書刊行会刊。 国会図書館デジタル・コレクションでは、雑誌「新聞研究」に連載されていたので、毎日1号ずつ読むのが楽しみとなっ…

『青鷺の霊』 土師清二

青鷺の霊:土師清二 1928年(昭3)朝日新聞社刊。 1955年(昭30)和同出版社刊。 青鷺の霊:土師清二2 タイトルは中身とほとんど無関係だった。江戸中期の仇討ちをめぐる群像劇。一方で親の仇を探して東海道を旅する浪士の阿部豊之助主従がいる。そして彼ら…

『江川蘭子』 江戸川乱歩・他5人の合作

江川蘭子:江戸川乱歩 他5人 1931年(昭6)博文館刊。(頁の損耗および落丁あり) 1947年(昭22)探偵公論社刊。 長篇連作探偵小説と銘打ってのリレー形式の作品。①江戸川乱歩、②横溝正史、③甲賀三郎、④大下宇陀児、⑤夢野久作、⑥森下雨村という昭和初期の第…

『平和の巴里』 島崎藤村

平和の巴里:島崎藤村 1915年(大4)左久良書房刊。 島崎藤村は41歳の年、1913年4月に神戸から出国して1916年7月に帰国するまでフランスに滞在した。その背景には家庭環境のいざこざがあったという。ちょうど第一次世界大戦が勃発する直前で、パリからの書簡…

『人の妻:探偵小説』 冷笑散史

人の妻:冷笑散史 1893年(明26)三友社刊。 冷笑散史(れいしょう・さんし)とは「思ふ処」あって仮名にしたと、序文でことわっている。元々ドイツ語の原本を翻案したもので、伊藤秀雄の『明治の探偵小説』によれば、同時期に独語からの探偵小説の翻訳の多…

『白蘭紅蘭』 藤沢桓夫

白蘭紅蘭:藤沢桓夫 1952年(昭27)湊書房刊。 1950年(昭25)9月~1951年(昭26)12月、雑誌「婦人生活」連載。 独身で吝嗇家の叔父が多額の財産を残して死去した。平凡なサラリーマンの青年は相続人となったが、ある見知らぬ女性との結婚が前提条件とされ…

『蜘蛛男』 江戸川乱歩

蜘蛛男:江戸川乱歩 1930年(昭5)大日本雄弁会講談社刊。 都心のビル街に美術商を騙って妙齢の美人姉妹を次々と篭絡する謎の怪人蜘蛛男。その手口は猟奇的な乱歩の世界そのものだが、作中に言及されるように欧州の怪奇童話「青髭」に似通った陰惨な罪業も見…

『坊ちゃん羅五郎』 白井喬二

坊ちゃん羅五郎:白井喬二 1942年(昭17)淡海堂出版刊。 1948年(昭23)講談社(小説文庫) 尾張の代官の御曹司として気ままに育ったように見える羅五郎は、付け人の呂之吉と共に代理で調停に出かけたが、その間に父親が冤罪で免職となる。それに対して一本…

『九番館』 長田幹彦

九番館:長田幹彦 1921年(大10)博文館刊。 長田幹彦(1887~1964)は「祇園物」と称される花街の風俗を描く耽美的な作風と言われていたが、この作品は一風変わった探偵小説というふれ込みだったので手に取った。ある港湾都市の一角にある「九番館」という…

『生首正太郎:探偵実話』 あをば(伊原青々園)

生首正太郎:伊原青々園 1900年(明33)金槙堂刊。前中後全3巻。時事新報連載136回。 明治から昭和初期にかけて作家および劇評家として活躍した伊原青々園(1870~1941)(本名:敏郎)は20代の頃「あをば」という筆名で新聞小説を書いていた。これは「あを…

『迷宮の鍵:探偵情話』 江見水蔭 

迷宮の鍵:江見水蔭 1923年(大12)博文館刊。 江見水蔭(1869~1934) は硯友社の門人で、明治期での多作家の一人とされている。「はしがき」にもある通り、日本で最初に「探偵小説」(犯人探しの)を書いたようだ。この本には「芸妓殺し」の中篇をはじめ、他…

『伝奇紫盗陣』 土師清二

伝奇紫盗陣:土師清二 1940年(昭15)博文館文庫 173, 174所収。前後2巻。 (でんき・むらさきとうじん)珍しくも鎌倉時代を背景とした伝奇小説である。北條氏の執権政治の1200年代から江戸時代の1700年代までは500年の隔たりがあるのだが、武家時代の風俗…

『青い樹氷』 大庭さち子

青い樹氷:大庭さち子 1955年(昭30)7月~1956年(昭31)7月 雑誌「新婦人」連載。 作者の大庭さち子 (1904~1997) は戦中から戦後にかけて少女向けの小説を中心とした創作活動を続けた。戦後は婦人雑誌等に、旧来の道徳観念に縛られてきた女性の生き方を問…

『二番線発車』 高見順

二番線発車:高見順 1955年(昭30)1月~12月、雑誌「婦人生活」連載。 1956年(昭31)東方社刊。 お嬢様育ちのヒロイン恵子が、初めて社会に出て働こうとして父親の紹介した会社に就職する。職場の先輩として積極的に声をかけてくれた男に好感を持つが既婚…

『黒壁』 水上勉

黒壁:水上勉 1961年(昭36)1月~11月、雑誌「新週刊」連載。 1961年(昭36)12月、角川書店刊。 1963年(昭38)角川小説新書。 黒壁:水上勉2 (こくへき)山伏信仰で知られる熊野川流域での殺人事件。電力開発工事の監督官庁の敏腕課長が現地への出張中に…

『夕立勘五郎』 神田伯山

夕立勘五郎:神田伯山 1929年(昭4)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第8巻所収。 1954年(昭29)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第18巻所収。これは戦後再刊されたものだが、演者名は無記名となっている。ほとんどが戦前刊の三代目と同じ口調なのだが、所々…

『女の一生』 田村泰次郎

女の一生:田村泰次郎 1956年(昭31)大日本雄弁会講談社刊。講談社ロマンブックス、上下2巻。 1953年(昭28)9月~1956年(昭31)5月 雑誌「婦人生活」連載。 『女の一生』というタイトルには、「この人生って何だったんでしょうね?」と自問するヒロイン…

『敵打日月双紙』 三上於菟吉

敵打日月双紙:三上於菟吉 1935年(昭10)平凡社、大衆文学名作選 第3巻所収。 1941年(昭16)博文館文庫(第2部 22-23) 所収。 (かたきうち・にちげつそうし)江戸時代までの仇討ちは、殺された親の仇を子供が藩主の許可を取り付けて竹矢来の場で果し合い…

『ダルタニャン色ざんげ』  クルティル・ド・サンドラス 小西茂也・訳

ダルタニャン色ざんげ:小西茂也 1950年(昭25)河出書房刊。 1955年(昭30)河出書房、河出新書32 作者のガティアン・ド・クルティル・ド・サンドラス(Gatien de Courtilz de Sandras, 1644~1712)は、ブルボン王朝時代のフランスの軍人であり、文筆家で…

『皿屋敷:新説怪談』 芳尾生

皿屋敷:新説怪談 芳尾生 1913年(大2)『皿屋敷』と『後の皿屋敷』の全2巻、樋口隆文館刊。 有名な怪談「皿屋敷」の「いちまぁ~い、にまぁ~い」の話かと思って読みだしたが、中身はまったくホラー味のない下剋上の謀反史談だった。もともと姫路の「播州…

『広島悲歌』 細田民樹

広島悲歌:細田民樹 1949年(昭24)世界社刊。 1949年(昭24)10月、雑誌「富士」掲載:『美しき大地』(中間部) 1949年(昭24)11月、雑誌「富士」掲載:『山河の歌声』(終末部) 被爆直後の広島とそこに暮らす人々の惨状に直接触れながら、その核兵器使…

『華族令嬢愛子:探偵実話』 菱花生

人情世界 (1901) 1901年(明34)3月~10月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行 華族令嬢愛子2 明治後期の読物雑誌「人情世界」(旬刊)に長期間にわたって連載された構想の大きい探偵活劇。地の文は美文調の文語体、会話は口語体という、言文一致体の定着…

『清き泉を掘らん』 芹澤光治良

清き泉を掘らん:芹澤光治良 1951年(昭26)4月~1952年(昭27)4月、雑誌「婦人生活」連載。 1954年(昭29)北辰堂刊。 抽象画を学ぶ画家の卵の青年とその友人の哲学科の学生、その妹のフランス語教師、そして音大生を目指す娘という男女二組を中心にした恋…

『六つの悲劇』 山岡荘八

六つの悲劇:山岡荘八 1949年(昭24)1月~12月、雑誌「富士」連載。 1955年(昭30)東方社刊。 山岡荘八(1907~1978) は大著「徳川家康」「織田信長」をはじめとする歴史小説家として知られているが、人物伝や現代小説でも非常に多くの作品を残した。 この…

『風吹かば吹け』 大林清

風吹かば吹け:大林清 1950年(昭25)4月~1951年(昭26)12月、雑誌「新婦人」連載。 1954年(昭29)東京文芸社刊。装丁は風間寛。 冒頭の戦争末期、昭和19年の別荘地軽井沢での作中人物の登場の仕方を読むと、その性格設定が「風と共に去りぬ」の人物像を…

『折れた相思樹』 富澤有為男

折れた相思樹:富澤有為男 1950年(昭25)1月~1952年(昭27)6月 雑誌「富士」連載。2年半、30カ月に及ぶ。 1952年 講談社刊。(傑作長編小説全集第21巻所収) 富澤有為男(ういお)(1902~1952) は作家であると共に帝展に入選するほどの実力のある画家でも…

『地獄から来た女』 田村泰次郎

1948年(昭23)2月~12月 雑誌「りべらる」連載。 1948年(昭23)太虚堂書房刊。 終戦直後の混乱期に大都市の繁華街などでは生活苦から売春する多くの女性たちが現れた。そうした女性たちの更生と自立を目的とした寮施設を運営する青年長見は、ある夜警察の…

『犯罪の足音』 岡田鯱彦

犯罪の足音:岡田鯱彦 1958年 光風社刊。 1963年 青樹社刊(青樹ミステリー) 岡田鯱彦(しゃちひこ)は国文学者で、古典に題材を求めたミステリー作品もある。これは戦後期に書かれた現代物の一つである。 結核に感染した大学一年生の青年が、病後の療養の…

『遠山の金さん』 山手樹一郎

1961年(昭36)講談社刊、山手樹一郎全集 第29巻 「遠山の金さん」とは、後に遠山金四郎景元として江戸北町奉行および南町奉行などを歴任した人物。柳橋の船宿相模屋の二階に居候する遊び人の金さんはもともと旗本の次男坊の身の上だが、家を飛び出して町人…