明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2023-01-01から1年間の記事一覧

『剥製人間』 香山滋

剥製人間:香山滋 1949年(昭24)7月~9月 雑誌「富士」連載。(初出時は『女體剥製』) 1948年(昭23)10月~11月 雑誌「富士」連載。『恐怖の仮面』 1955年(昭30)東方社刊。 東方社の単行本には表題作『剥製人間』と『恐怖の仮面』の中篇2作と短篇4作…

『愛と罪』 中野実

1949年(昭24)8月~1950年(昭25)12月 雑誌「婦人生活」連載。 1951年 東方社刊。 終戦直後の東京の、焼跡が残り、闇市がはびこる中での人々の生活。主人公の舞台装置家岩村は身寄りのない若い女性の来訪を受け、モデルでも下女でも使ってほしいとせがまれ…

『ノア』『三界萬霊塔』 久生十蘭

ノア1 1950年(昭25)2月~4月 雑誌「富士」連載。『ノア』 1949年(昭24)7月 雑誌「富士」掲載。『三界萬霊塔』 戦後に復刊したと公言する一般大衆向けの文芸雑誌「富士」は国土の復興を目指す人々の旺盛な読書慾を満たして大いに販売数を伸ばした。版元…

『花と波濤』 井上靖

1953年(昭28)1月~12月 雑誌「婦人生活」連載。 1954年(昭29)講談社刊。 井上靖を読むのは何十年ぶりかになる。地方都市の裕福な医者の家に育ったヒロインの紀代子は京都の叔母の許に寄宿して、何か仕事を見つけて働こうとするが、生活に追われる境遇で…

『悪魔博士』 西條八十

1948年(昭23)12月号~1949年(昭24)8月号、雑誌「東光少年」連載。 1953年(昭28)偕成社刊。 東光少年 終戦直後の昭和20年代には軍国主義の抑圧から解放されて、数多くの雑誌が出版された。少年少女向けの雑誌も同様で、この「東光少年」も国会図書館デ…

『母孔雀』 竹田敏彦

1956年(昭31)1月~12月 雑誌「小説倶楽部」連載。 1956年(昭31)東方社刊。 ヒロインは若後家の身ながらも兜町で「紅将軍」の異名を持つヤリ手の証券会社経営者となっている。女手ながら美貌を武器に、強引な手腕で亡夫の後に会社を立て直した。物語の前…

『悪魔』 稲岡奴之助

奴之助 悪魔1 1911年(明44)嵩山堂刊(すうざんどう)(青木嵩山堂から社名を変更したらしい) 題名から想像して、犯罪小説かと思って読み始めたが、明治期の悲劇小説の部類だった。「悪魔」と題したのは恋人に振られた画学生が、恨みつらみを込めてその恋…

『指環』 黒岩涙香

涙香 指環 1889年(明22)金桜堂刊。原作はフォルチュネ・デュ・ボアゴベ (Fortuné du Boisgobey, 1821~1891) の新聞連載小説『猫目石』(L’œil de chat) だが、涙香は元々の仏語から英訳された本からの重訳で記述していた。発表から1年後には和訳が出版さ…

『松五郎捕物帳』 栗島狭衣

松五郎捕物帳 1935年(昭10)松光書院刊。作者の栗島狭衣(くりしま・さごろも)(1876~1945) は劇作家の岡本綺堂とほぼ同年代だったが、20代は朝日新聞の記者であるとともに文士劇の主要メンバーとして活動した。30代からは一座を組んで俳優として活動し、…

『夜叉夫人』 樋口ふたば

夜叉夫人1 1897年(明30)聚栄堂刊。書名『夜叉夫人』、作者名:樋口二葉(ふたば) 1910年(明43)晴光館刊。書名『鮮血淋漓』、著者名:樋口新六 (靄軒居士) 1911年(明44)日吉堂刊。書名『意外の秘密』、著者名:やなぎ生 樋口二葉(ふたば)(1863~19…

『われ恋やまず』 長谷川幸延

1952年(昭27)11月~1954年(昭29)3月 雑誌「婦人生活」連載 1954年(昭29)和同出版刊。 長谷川幸延(こうえん)(1904~1972)はラジオドラマや映画の脚本家としても知られ、大阪の人情と風俗を描いた小説家である。生涯で7回も直木賞にノミネートされ…

『孤独の罠』 日影丈吉

1963年(昭38)講談社刊。日影丈吉はフランスのミステリーの翻訳家としてのほうが馴染みがあった。この作品は昔読もうと思って書棚に並べたこともあったが、読めなかった経緯がある。どこかジョルジュ・シムノンに似た作風に思えた。 群馬県の渋川とその周辺…

『銀の鞭』 加藤武雄

1930年(昭5)新潮社刊、「長篇三人全集第5巻」所収。 加藤武雄(1988~1956) は新潮社で文芸誌の編集に携わった後に作家生活に入った。昭和の戦前、戦中、戦後を通して、それぞれの時勢に合わせた作品を書いた。純文学者か通俗作家かをしいて区分する意味は…

『青い星の下で』 藤沢桓夫

1957年(昭32)10月~1958年(昭33)12月、雑誌「読切俱楽部」連載。 1959年(昭34)東方社刊。 藤沢桓夫(たけお)(1904~1989) は昭和初期には新感覚派の作家として知られた。戦後期を経て昭和の末まで大阪を基点に多くの小説作品を残した。 この作品も大…

『怪奇探偵実話』 高橋定敬

1933年(昭8)大日本雄弁会講談社刊。著者の高橋定敬(さだあき)は約20年間、現職の警察官として働いたようだ。大正5年頃から捜査現場の人間の視点から探偵実話を書き始めた。整然とした文体で、簡潔かつ冷静、的確に事件の推移を記述している。収録の12篇…

『頭(ヘッド):探偵苦闘』 吐峰山人

1926年(大15)村田松栄館刊。 作者の吐峰山人(とほう・さんじん)については、生没年とも不明。大正期から昭和初期にかけて歴史物、講談物、探偵物、冒険物の分野で著作を残している。明快な文章で読みやすい。この作品のタイトルは英語カナ表記で「ヘッド…

『花の放浪記』 夏目千代

1953年(昭28)10月~1954年(昭29)12月 雑誌「婦人生活」連載。 1956年(昭31)朋友社刊。(プラタン叢書) 戦後昭和の女流作家は大抵名前だけは知っていたつもりだったが、この夏目千代は知らなかった。40歳近くになっていきなり処女作の長編を婦人雑誌に…

『不知火奉行』 横溝正史

1956年(昭31)6月~8月、雑誌「小説倶楽部」連載。 1957年(昭32)同光社出版刊(新作・大衆文学全集)。 横溝の時代物の一冊。表題作は雑誌掲載時に「江戸のルパン」と副題が付いていた。黒頭巾の謎の浪人が「不知火」という名前で参上するが、その正体が…

『稲妻小僧貞次:探偵講談』 春廼家朗月

1902年(明35)井上一書堂刊。明治犯罪史上、大賊の「稲妻強盗・坂本慶次郎」として知られる人物は、1899年(明32)2月に逮捕され、1900年(明33)2月に処刑された。講談師春廼家朗月はその人物の氏名を高本貞次郎にもじり、枚挙にいとまがない犯行の数々の…

『稲妻小僧:探偵実話』 狂花園主人

1898年(明31)1月~6月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行。連載17回以降欠号。 明治期における「稲妻強盗」あるいは「稲妻小僧」という呼び名は、犯行の素早さ、逃げ足の速さなどの強盗に対して普通名詞のように使われた傾向が見られる。ひょっとした…

『永遠にわれ愛す』 田村泰次郎

1955年(昭30)東方社刊。 1951年 6月~1952年 10月、雑誌「婦人生活」連載。(雑誌連載は前半欠号) 戦後の文学界を代表する一人、田村泰次郎 (1911-1983) は代表作『肉体の門』などで性情や肉欲の表現を自由に描いて注目されたが、この婦人雑誌への連載小…

『青貝進之丞人斬控』 高木彬光

1957年(昭32)9月~1958年(昭33)5月 雑誌「読切俱楽部」連載 1958年(昭33)東京文芸社刊。「女自雷也」「魔像往来」「妻恋坂の決闘」など7篇所収。 高木彬光の剣客物の時代小説。江戸の両国橋の袂で自分の命を売るという商売をする浪人・青貝進之丞は目…

『べらんめえ剣法:若さま侍捕物手帖』 城昌幸

1952年(昭27)3月~1953年(昭28)2月 雑誌「読切俱楽部」連載 1958年(昭33)同光社出版刊。「手妻はだし」「天狗隠し」「名指し幽霊」など12篇所収。 城昌幸の代名詞ともなった『若さま侍捕物手帖』のシリーズは戦前の1939年(昭16)に第1作を書いてから…

『赤潮』 大橋青波

1919年(大8)春江堂刊。前後2篇。作者の大橋青波(せいは)は名古屋の新聞社の記者として働く傍ら、作家として小説を書く健筆家として知られていたが、生没年や経歴はほとんど不明。その後上京して作家として独立したらしい。古巣の名古屋の新聞界とは繋が…

『遠い青空』 牧野吉晴

1956年(昭31)東京文芸社刊。 1951年(昭26)1月~1952年(昭27)6月 雑誌「婦人生活」連載。 戦中から戦後にかけての混乱期における相思相愛の男女を翻弄した運命の行き違いと愛情の純化を描く。両親の急死で孤児となったヒロインの知恵子は、唯一の身寄り…

『塚原卜伝二代の誉』 錦城斎一山

1898年(明31)2月~4月 雑誌「人情世界」連載 1898年(明31)11月、博盛堂刊。 錦城斎は、江戸の講談師の一龍斎系列の名跡である。ここで口演しているのは二代目錦城斎一山(いっさん)(1858-1900)で、42歳で早逝する直前になる。剣術の名人塚原卜伝ではな…

『?(ぎもん)の女:秘密小説』 玉川真砂子

1919年(大8年)共成会出版部刊。大正期の女性ミステリー作家と思われるが、この作品1冊のみで、生没年も不明。タイトルに疑問符?を使っている点も気になって読んでみた。ある殺人事件をきっかけに重要人物が身を隠すという設定はミステリー小説の手法のパ…

『江戸の恋人達:銭形平次捕物控』 野村胡堂

1950年(昭25)矢貴書店刊。新大衆小説全集第10巻所収。長篇を読むのは2作目となるが、事件の骨組みが最初の『娘変相図』と似通っていて、なかなか捜査の糸口が見えないのもむしろ平次たちの行動に緩慢さを感じた。未遂も含めて連続殺傷事件の被害者が多く…

『つきぬ涙』 篠原嶺葉

1917年(大6)春江堂刊。前後2巻。 真情と義理との板挟みで人生を絶望するまでに追い込まれる女性の悲劇小説。相思相愛の仲の男女が親同士の仲違いゆえに結ばれず、男はドイツ留学へと旅立つ。その直後、女は実家の破産の危機に直面し、泣く泣く金銭ずくの…

『隠れた手』 甲賀三郎

1957年(昭32)東方社刊。甲賀三郎(1893-1945) の中篇集。表題作『隠れた手』と『血染の紙入』の二作を読んだ。前者は一流ホテルの客室に闖入した青年が見聞きした殺人事件のトリックの謎解きだが、時間軸の中に偶然が組み込まれる「あり得なさ」を感じた。…