明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『人間豹』 江戸川乱歩

人間豹:江戸川乱歩 1939年(昭14)新潮社刊、江戸川乱歩選集 第5巻。 乱歩特有の怪人対探偵・明智小五郎の探偵活劇の一つ。少し前に読んだ「蜘蛛男」と骨組みが似通っている。前半は主人公の青年が気に入っていた女性たちを立て続けに人間豹に奪われるスト…

『捕物そばや』(天狗ばなしの巻)村上元三

捕物そばや:村上元三 1953年(昭25)桃源社刊。全11篇所収。 1961年(昭36)12月、雑誌「小説倶楽部」錦秋大増刊号に「軽気球の殺人」のみ再掲載。 捕物そばや:村上元三2 村上元三は戦後の時代小説の代表的な作家の一人だった。剣豪もの、武将もの、侠客…

『因果華族:活劇講譚』 安岡夢郷

因果華族:安岡夢郷 1917年(大6)大川屋書店刊、みやこ文庫第1編「因果華族」 1918年(大7)大川屋書店刊、みやこ文庫第2遍「馬丁丹次」 1918年(大7)大川屋書店刊、みやこ文庫第3編「雪見野お辰」 探偵活劇と悲劇小説をミックスしたような物語構成…

『自殺博士』 大下宇陀児

自殺博士:大下宇陀児 1959年(昭34)同光社出版刊。 1956年(昭31)5月、雑誌「小説倶楽部」増刊号再録「走る死美人」 風采の上がらない元警察署長の私立探偵・杉浦良平と助手の影山青年の活躍する短篇シリーズから6篇を収める。いずれも戦前から戦中にか…

『江戸っ子八軒長屋』 林二九太

江戸っ子八軒長屋:林二九太 1956年(昭31)桃源社刊。 1955年(昭30)7月~12月、雑誌「読切俱楽部」連載。 林二九太(はやし・にくた、1896~ ? ) は当初劇作家として活躍したが、戦中から戦後期にかけてはユーモア作家として多くの作品を残した。この作品…

『鉄仮面』 フォルチュネ・デュ・ボアゴベ

鉄仮面:江戸川乱歩 1940年(昭15)博文館刊。久生十蘭・訳。 1938年(昭13)大日本雄弁会講談社刊。江戸川乱歩・訳。 フランス史における「鉄仮面」の史実はルイ14世時代の奇妙な謎としてデュマやボアゴベをはじめ多くの作家たちの創作欲を搔き立てた。名…

『鞍馬天狗:新東京絵図』 大佛次郎

鞍馬天狗・新東京絵図:大佛次郎 1947年(昭22)1月~1948年(昭23)5月 雑誌「苦楽」連載。 1948年(昭23)大日本雄弁会講談社刊。 倒幕が成就し、明治維新となった直後の鞍馬天狗の後日譚。江戸は東京と改称され、徳川家は駿府に移り、旗本・御家人の多く…

『紫被布のお連:探偵実話』 橋本埋木庵

紫被布のお連:橋本埋木庵 1903年(明36)金槇堂刊。前後2巻。 タイトルの「被布」(ひふ)とは現代人には馴染みが薄いが、和装用語、高貴な婦人の和服の上にはおる上衣のようなもの。(画像参照) 被布 huaban.com これも探偵実話の一つで、明治中期、東京…

『姿なき怪盗』 甲賀三郎

姿なき怪盗:甲賀三郎 1932年(昭7)新潮社、新作探偵小説全集 第3巻。 1956年(昭31)河出書房、探偵小説名作全集 第2巻。 「怪盗」というよりも「怪人」だろう。盗み程度では済まない、平気で次々に殺人を企てる鬼畜の犯人だ。敏腕記者がやっと取れた休…

『キリストの石』 九鬼紫郎

キリストの石:九鬼紫郎 1960年(昭35)日本週報社刊。 1963年(昭38)新流社刊。「女と検事」に改題。 タイトルは新約聖書の話から来ている。罪を冒した女を石打ちの刑にしようとする所で、キリストが、自身に罪を持たない人間だけがそれを行なえるのだと諭…

『新聞小説史(明治篇)』 高木健夫

新聞小説史(明治篇):高木健夫 1970年(昭45)4月~1973年(昭48)12月、雑誌「新聞研究」連載、全45回。 1974年(昭49)国書刊行会刊。 国会図書館デジタル・コレクションでは、雑誌「新聞研究」に連載されていたので、毎日1号ずつ読むのが楽しみとなっ…

『青鷺の霊』 土師清二

青鷺の霊:土師清二 1928年(昭3)朝日新聞社刊。 1955年(昭30)和同出版社刊。 青鷺の霊:土師清二2 タイトルは中身とほとんど無関係だった。江戸中期の仇討ちをめぐる群像劇。一方で親の仇を探して東海道を旅する浪士の阿部豊之助主従がいる。そして彼ら…

『江川蘭子』 江戸川乱歩・他5人の合作

江川蘭子:江戸川乱歩 他5人 1931年(昭6)博文館刊。(頁の損耗および落丁あり) 1947年(昭22)探偵公論社刊。 長篇連作探偵小説と銘打ってのリレー形式の作品。①江戸川乱歩、②横溝正史、③甲賀三郎、④大下宇陀児、⑤夢野久作、⑥森下雨村という昭和初期の第…

『平和の巴里』 島崎藤村

平和の巴里:島崎藤村 1915年(大4)左久良書房刊。 島崎藤村は41歳の年、1913年4月に神戸から出国して1916年7月に帰国するまでフランスに滞在した。その背景には家庭環境のいざこざがあったという。ちょうど第一次世界大戦が勃発する直前で、パリからの書簡…

『人の妻:探偵小説』 冷笑散史

人の妻:冷笑散史 1893年(明26)三友社刊。 冷笑散史(れいしょう・さんし)とは「思ふ処」あって仮名にしたと、序文でことわっている。元々ドイツ語の原本を翻案したもので、伊藤秀雄の『明治の探偵小説』によれば、同時期に独語からの探偵小説の翻訳の多…

『白蘭紅蘭』 藤沢桓夫

白蘭紅蘭:藤沢桓夫 1952年(昭27)湊書房刊。 1950年(昭25)9月~1951年(昭26)12月、雑誌「婦人生活」連載。 独身で吝嗇家の叔父が多額の財産を残して死去した。平凡なサラリーマンの青年は相続人となったが、ある見知らぬ女性との結婚が前提条件とされ…

『蜘蛛男』 江戸川乱歩

蜘蛛男:江戸川乱歩 1930年(昭5)大日本雄弁会講談社刊。 都心のビル街に美術商を騙って妙齢の美人姉妹を次々と篭絡する謎の怪人蜘蛛男。その手口は猟奇的な乱歩の世界そのものだが、作中に言及されるように欧州の怪奇童話「青髭」に似通った陰惨な罪業も見…

『坊ちゃん羅五郎』 白井喬二

坊ちゃん羅五郎:白井喬二 1942年(昭17)淡海堂出版刊。 1948年(昭23)講談社(小説文庫) 尾張の代官の御曹司として気ままに育ったように見える羅五郎は、付け人の呂之吉と共に代理で調停に出かけたが、その間に父親が冤罪で免職となる。それに対して一本…

『九番館』 長田幹彦

九番館:長田幹彦 1921年(大10)博文館刊。 長田幹彦(1887~1964)は「祇園物」と称される花街の風俗を描く耽美的な作風と言われていたが、この作品は一風変わった探偵小説というふれ込みだったので手に取った。ある港湾都市の一角にある「九番館」という…

『生首正太郎:探偵実話』 あをば(伊原青々園)

生首正太郎:伊原青々園 1900年(明33)金槙堂刊。前中後全3巻。時事新報連載136回。 明治から昭和初期にかけて作家および劇評家として活躍した伊原青々園(1870~1941)(本名:敏郎)は20代の頃「あをば」という筆名で新聞小説を書いていた。これは「あを…

『迷宮の鍵:探偵情話』 江見水蔭 

迷宮の鍵:江見水蔭 1923年(大12)博文館刊。 江見水蔭(1869~1934) は硯友社の門人で、明治期での多作家の一人とされている。「はしがき」にもある通り、日本で最初に「探偵小説」(犯人探しの)を書いたようだ。この本には「芸妓殺し」の中篇をはじめ、他…

『伝奇紫盗陣』 土師清二

伝奇紫盗陣:土師清二 1940年(昭15)博文館文庫 173, 174所収。前後2巻。 (でんき・むらさきとうじん)珍しくも鎌倉時代を背景とした伝奇小説である。北條氏の執権政治の1200年代から江戸時代の1700年代までは500年の隔たりがあるのだが、武家時代の風俗…

『青い樹氷』 大庭さち子

青い樹氷:大庭さち子 1955年(昭30)7月~1956年(昭31)7月 雑誌「新婦人」連載。 作者の大庭さち子 (1904~1997) は戦中から戦後にかけて少女向けの小説を中心とした創作活動を続けた。戦後は婦人雑誌等に、旧来の道徳観念に縛られてきた女性の生き方を問…

『二番線発車』 高見順

二番線発車:高見順 1955年(昭30)1月~12月、雑誌「婦人生活」連載。 1956年(昭31)東方社刊。 お嬢様育ちのヒロイン恵子が、初めて社会に出て働こうとして父親の紹介した会社に就職する。職場の先輩として積極的に声をかけてくれた男に好感を持つが既婚…

『黒壁』 水上勉

黒壁:水上勉 1961年(昭36)1月~11月、雑誌「新週刊」連載。 1961年(昭36)12月、角川書店刊。 1963年(昭38)角川小説新書。 黒壁:水上勉2 (こくへき)山伏信仰で知られる熊野川流域での殺人事件。電力開発工事の監督官庁の敏腕課長が現地への出張中に…

『夕立勘五郎』 神田伯山

夕立勘五郎:神田伯山 1929年(昭4)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第8巻所収。 1954年(昭29)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第18巻所収。これは戦後再刊されたものだが、演者名は無記名となっている。ほとんどが戦前刊の三代目と同じ口調なのだが、所々…

『女の一生』 田村泰次郎

女の一生:田村泰次郎 1956年(昭31)大日本雄弁会講談社刊。講談社ロマンブックス、上下2巻。 1953年(昭28)9月~1956年(昭31)5月 雑誌「婦人生活」連載。 『女の一生』というタイトルには、「この人生って何だったんでしょうね?」と自問するヒロイン…

『敵打日月双紙』 三上於菟吉

敵打日月双紙:三上於菟吉 1935年(昭10)平凡社、大衆文学名作選 第3巻所収。 1941年(昭16)博文館文庫(第2部 22-23) 所収。 (かたきうち・にちげつそうし)江戸時代までの仇討ちは、殺された親の仇を子供が藩主の許可を取り付けて竹矢来の場で果し合い…

『ダルタニャン色ざんげ』  クルティル・ド・サンドラス 小西茂也・訳

ダルタニャン色ざんげ:小西茂也 1950年(昭25)河出書房刊。 1955年(昭30)河出書房、河出新書32 作者のガティアン・ド・クルティル・ド・サンドラス(Gatien de Courtilz de Sandras, 1644~1712)は、ブルボン王朝時代のフランスの軍人であり、文筆家で…

『皿屋敷:新説怪談』 芳尾生

皿屋敷:新説怪談 芳尾生 1913年(大2)『皿屋敷』と『後の皿屋敷』の全2巻、樋口隆文館刊。 有名な怪談「皿屋敷」の「いちまぁ~い、にまぁ~い」の話かと思って読みだしたが、中身はまったくホラー味のない下剋上の謀反史談だった。もともと姫路の「播州…