明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『火の玉小僧』 伊原青々園

火の玉小僧:伊原青々園 1915年(大4)大川屋書店刊。 明治31年から37年まで全国各地を荒し回った連続放火強盗犯、火の玉小僧こと西條浅次郎の生き様を描いた。明治大正の頃には個人情報は保護されておらず、事件の被害者名、所在地なども詳細に新聞で報じら…

『血染の短刀』 三品馨園

血染の短刀:三品馨園 1917年(大6)樋口隆文館刊。 三品馨園(みしな・けいえん、1857~1937)という明治大正期の作家については検索してもあまり情報が得られない。わずかにGoogle Books で明治期の文芸回想集等のいくつかに記述が見られた。 「三品は蘭湲…

『右門捕物帖全集(第1巻)』 佐々木味津三

右門捕物帖:佐々木味津三 1956年(昭31)鱒書房刊。 「むっつり右門」の捕物帖は全部で38話にのぼる。この鱒書房版では全5巻に分かれ、第1巻は第一番手柄「南蛮幽霊」から第七番手柄「村正騒動」までを収める。すべての話が「第〇番手柄」と整理され、…

『夜光怪人』 横溝正史

夜光怪人:横溝正史 2021年(令3)柏書房、横溝正史少年小説コレクション3「夜光怪人」所収。 1949年(昭24)5月~1950年(昭25)5月、雑誌「少年少女譚海」(たんかい)に連載。 横溝正史による少年向け探偵小説。仮面、怪盗、変装などのキーワードからも…

『少女地獄』 夢野久作

少女地獄:夢野久作 1936年(昭11)黒白書房、かきおろし探偵傑作叢書第1巻。 『探偵小説:少女地獄』というタイトルで、書き下ろしの単行本として出版された。目次によれば、『何んでも無い』、『殺人リレー』、『火星の女』の三部作をまとめた中短編集であ…

『怪龍島』 香山滋

怪龍島:香山滋 1985年(昭60)国書刊行会、香山滋名作選。 1949年(昭24)1月~ 雑誌「少年世界」連載。 香山滋は大蔵省の役人だったが、戦後になって40歳を越えてから作家活動に入った。古生物学を独学で修めたため、恐竜や怪獣が登場する作品が多い。 …

『凍る地球』 高垣眸、深山百合太郎 合作

凍る地球:高垣眸 1987年(昭42)三一書房刊、少年小説大系 第5巻 高垣眸 集 所収。 1948年(昭23)12月~1950年(昭25)5月、雑誌「東光少年」連載。 戦前・戦中までは「怪傑黒頭巾」や「まぼろし城」などで伝奇時代小説の人気作家だった高垣眸が、戦後、科…

『大捕物仙人壺』 国枝史郎

大捕物仙人壺:国枝史郎 1942年(昭17)万里閣刊。 戦争真只中の昭和17年に刊行された国枝史郎の中短編集。表題作の中篇「仙人壺」を読んだ。江戸時代末期に官軍との重要な交渉役を果たした勝海舟や剣士伊庭八郎などの史実上の人物と、女軽業の一座、日本…

『毒血の壺』 江見水蔭

毒血の壺:江見水蔭 1918年(大7)樋口隆文館刊、前後終全3篇。 明治大正の頃、結核は不治の病として、現代のガンと同等以上に人々に恐れられていた。効果的な治療法もまだ確立されておらず、滋養豊富な食事と転地療養ぐらいしか考えられなかった。人によっ…

『悪魔の口笛』 高木彬光

悪魔の口笛:高木彬光 1952年(昭27)7月~1953年(昭28)7月、雑誌「少女世界」連載。 1960年(昭35)ポプラ社刊、少年探偵小説全集第4巻所収。 戦後創刊された少女向け雑誌「少女世界」に連載された。この時期は少年少女向けの読物の全盛時代であり、文豪…

『幽霊の手引:怪談百物語』 高山怨縁

幽霊の手引:高山怨縁 1917年(大6)大川屋書店、怪談百物語第6巻。 作者高山怨縁(おんえん?)については生没年を含め、まったく情報がない。大川屋書店の企画で『怪談百物語』という怪奇物のシリーズ本が大正期に出されており、この一作の他に同シリーズ…

『毒百合』 橋本埋木庵

毒百合:橋本埋木庵 1915年(大4)樋口隆文館刊、前後終全3篇。 二つの筋が織り交ぜになった構成になっている。一つは美人の毒婦の半生記、もう一つは富豪商家の身上の乗っ取りを図る男の悪知恵の成功談である。幼い孤児は出会った大人の後を付き従うこと以…

『少年探偵長』 海野十三

少年探偵長:海野十三 1948年(昭23)12月~1949年(昭24)11月、雑誌「東光少年」連載。 1954年(昭29)東光出版社刊。 1960年(昭35)ポプラ社刊、少年探偵全集第3巻。 1967年(昭42)ポプラ社刊、名探偵シリーズ第6巻。 海野十三(じゅうざ)の絶筆となっ…

『夜の門』 川口松太郎

夜の門:川口松太郎 1949年(昭24)日比谷出版社刊。 ヒロインの章子はエミー野口という芸名で上海のキャバレーの楽団でヴァイオリン奏者兼歌手として働いていた。終戦となって、在留していた日本人はすべて喪失感に囚われ、虚無的に生きるしかなかった。男…

『世界名探偵苦心録』 安東鶴城 訳編

世界名探偵苦心録:安東鶴城 1913年(大2)フース・フー・イン・ジャパン社刊。 20世紀初頭における米英を中心とした警察機関で活躍した実在の名探偵たちの事例集。底本としては当時の「ポリス・ストーリーズ」などとして発行されていた実話雑誌の記事から…

『魔子恐るべし』(上) 宮本幹也

魔子恐るべし(上):宮本幹也 1953年(昭28)6月~1954年(昭29)7月、「東京タイムズ」連載。 1954年(昭29)桃園書房刊。 魔子恐るべし(上):宮本幹也2 八ヶ岳に住むサンカ(山窩)の族長の娘魔子が列車で終戦直後の東京に出てくる。サンカ(山窩)とは…

『蛇姫様』 川口松太郎

蛇姫様:川口松太郎 1939年(昭14)10月~1940年(昭15)7月、東京日々新聞、大阪毎日新聞連載。 1949年(昭24)日比谷出版社刊。 1968年(昭43)講談社、川口松太郎全集 第2巻 所収。 野州烏山藩の領主大久保佐渡守は病身のため、国元の政事は国家老の佐伯…

『封人窟』 渡辺 黙禅

封人窟:渡辺黙禅1 1915年(大4)樋口隆文館刊、前後終編全3巻。 明治大正期の長篇小説の大家の一人、渡辺黙禅の一作。新聞小説を各紙に何本か掛け持ちで連載していたらしく、同じ年に単行本として何点もの長篇(2分冊、3分冊)を出していた。作風は多数の…

『隠密一代男:捕物秘帖』 佐々木味津三

隠密一代男:佐々木味津三 1942年(昭17)蒼生社刊。 1934年(昭9)非凡閣、新選大衆小説全集 第15巻所収。『隠密一代男』 1934年(昭9)平凡社、佐々木味津三全集 第8巻所収。『神風時雨組』 『隠密一代男』の通しタイトルで公儀隠密薬師寺大馬とその配下…

『船冨家の惨劇』 蒼井雄

船富家の惨劇:蒼井雄 1936年(昭11)春秋社刊。 1956年(昭31)河出書房、探偵小説名作全集第9(坂口安吾・蒼井雄集)所収 昭和初期、春秋社の懸賞小説で一等を獲得した作品だが、作者の蒼井雄はプロの作家とはならず、会社員としてのキャリアを全うし、こ…

『悪魔を買った令嬢』 川口松太郎

悪魔を買った令嬢:川口松太郎 1949年(昭24)日比谷出版社刊。 1949年(昭24)1月~12月 雑誌「スタイル」連載。 川口松太郎の現代小説の一作。彼は通俗小説の大家と呼ばれたが、小説というものが「何かを物語るもの」という本質を有するかぎり、快筆をふる…

『尼崎里也女:丸亀女傑』 石川一口

続編『怪婦丸亀大仇討』 春帆楼白鷗 尼崎里也女:石川一口、鈴木錦泉 画 1910年(明43)積善堂刊。 1916年(大5)樋口隆文館刊。 石川一口(いっこう)は江戸時代から続く講釈師の石川派の五代目として明治後期に活躍した。生没年、本名など不詳。口演速記本…

『恋の魔術』 江見水蔭

恋の魔術:江見水蔭1 1919年(大8)樋口隆文館刊、前後終全3篇。 大正期のロマン伝奇小説。江見水蔭の軽妙な筆運びがグイグイ読ませてくれる。甲州韮崎から山奥に入ったラジウム鉱泉の星飛村が冒頭の舞台。山歩きで遭難しかけた青年が這う這うの体で一軒の…

『木乃伊の口紅』 田村俊子

木乃伊の口紅:田村俊子 1914年(大3)牧民社刊。 「木乃伊(ミイラ)の口紅」という題名が妙に気にかかっていたので読もうと思った。田村俊子は幸田露伴に弟子入りした純文学作家である。季節や事物への感受性が繊細かつ鋭敏で、文章に重みを感じた。共に文…

『日の丸太郎:豪傑小説』 三宅青軒

日の丸太郎:三宅青軒2 1908年(明41)大学館刊。前後全2巻。 副題に「豪傑小説」と銘打った明治の壮士が活躍する話。東京二六新聞に連載。主人公の日の丸太郎という名前からしてお伽話めいているのだが、いきなり上野の花見の場に現れて国粋論を演説する。…

『青春売場日記』 獅子文六

青春売場日記:獅子文六 1937年(昭12)春陽堂、新作ユーモア全集 第10巻所収 獅子文六(1893~1969)の中篇「青春売場日記」を中心とするユーモア小説の中短編集。昭和初期の東京でデパートの女店員(ヂョテさん)の採用試験に応募した二人の女性がふとした…

『蘆江怪談集』 平山蘆江

蘆江怪談集:平山蘆江 1934年(昭9)岡倉書房刊。 平山蘆江(ろこう)(1882~1953)についてはあまり語られることがない。記者作家として新聞社を転々として、演芸・花柳界の著作が多いが、歴史物、あるいは怪談物も知られている。 彼の文体は平静沈着な語…

『火葬国風景』 海野十三

火葬国風景:海野十三 1935年(昭10)春秋社刊。 海野十三(1897~1949)は昭和初期から終戦直後にかけて活躍したが、当初は探偵小説家としての作品が多かった。この一冊は単行本としての四番目の作品集で、表題作「火葬国風景」の他に8篇収められている。…

『踊子殺人事件』 武田武彦

踊子殺人事件:武田武彦 1946年(昭21)岩谷書店、岩谷文庫10。 武田武彦という探偵小説作家の名前はあまり聞かなかったが、調べてみると終戦直後に創刊された雑誌「宝石」の編集にたずさわった人で、その合間に作品を書いていたようだ。デジタル版で岩谷文…

『悪魔の弟子』 浜尾四郎

1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集 第16巻所収。 浜尾四郎の作家としての活動は6年間しかなかったが、その最初期の3作品を読んだ。 『悪魔の弟子』 片や裁判所の判事、片や殺人犯。獄中から少年期に兄のように慕っていた判事に宛てた長文の手紙のスタ…